第26章 君の居ない時間※
最後の口づけをすると、笑顔のほの花をその場で見送った。
誰よりもこれを受け入れられていないのは自分だったのかもしれない。
何回か後ろを振り返って手を振ってくれるほの花はいつも通りの彼女。
いつも隣にいて笑いかけてくれたのに暫く会えないと言うことが地獄の日々に感じる。
後ろを振り向けば、元嫁達が涙を流しながらほの花たちの後ろ姿を見つめていた。
それを一緒にアイツらが見えなくなるまでその場で見送ると屋敷に入るように促してやる。
コクンと頷く三人と共に中に入るといやにガランとした屋敷内に須磨がまた泣き出す始末。
「…須磨。いい加減泣き止め。」
「無理ですぅ…!う、ざみじぃ〜…!ほの花さん、私のこと嫌いになってないですかねぇ?!昨日あんなに泣いちゃったから…、やだやだぁー!嫌われたくなぁい!!」
「そんなことで嫌うような奴じゃねぇよ。いいから泣き止め。お前が泣くと雛鶴とまきをも泣きそうになってんだろうが。」
後ろを見れば涙を堪えて唇を噛み締めている二人が目に入る。
俺だって行かせたくないのは山々で、ほの花をこの腕に抱いて監禁できればと危ない考えが頭に浮かんでいると言うのに。
それにほの花はそんなことで須磨のことを嫌うような奴ではない。
どちらかと言えば、今頃「自分一人で行けば良かった」と後悔こそすれど、須磨のことを責めたりなどしていないと思う。
そう言う奴だ。
だからこそ別の心配が頭に浮かぶのだ。
三人の頭を順にぽんっと撫でてやるとそのまま部屋に戻る。
部屋の中にはほの花の匂いがまだ感じられてホッとした。
きっとだんだんこの匂いは無くなっていくのだろう。
その時、俺はどうやって切り抜けたらいいのか分からない。
別離期間中は夜着があった。
でも、今は別れているわけではない。
別れているわけではないが、どうも遠くに離れたのは物理的に距離感だけではない気がしてならないのは気のせいなのか?
脳裏に浮かぶのはほの花の笑顔。
早くあの顔に会いたいなんて。
いま見送ったばかりの人間の考えとしては先が思いやられる。