第26章 君の居ない時間※
須磨の大号泣どころか雛鶴やまきをも随分と狼狽えていたようで、普段ならば須磨を咎めようとするのに二人ともが憔悴していた。
そんな反応をされれば、気にかかるのはたった一つ。
「…お前は悪くねぇから気にすんなよ。」
「うん…。」
「自分だけが行けばよかったなんて思う必要はねぇし、そんなことするな。あいつら三人も納得してんだろ?それならお前は堂々と行けば良い。」
先ほどまで女々しく、行くな何だの言っていた自分を全力で殴ってやりたい。
あんなに須磨に泣かれると、アイツらも連れて行くと決めたほの花が責められているようだ。
もちろん須磨も悪気があったわけでは無いし、そこに他意はない筈。
ほの花を責めたつもりもなければ、ただ素直に感情を出しただけのこと。
それでほの花一人で行って来いだなんて思ってもいない。
たった一人で行って、無理して感染症に罹って万が一…と言うことを考えたら今度は俺が怖くてたまらない。
本来ならば自分が共に行きたいくらいだが、それが叶わないのならばあの三人に行ってもらえるならば心強い。
アイツらならほの花のためにならないことはしないだろうし、男に言い寄られたとしても護衛をしてくれると思う。
それだけの信頼関係の構築は既に済んでいる。
「…うん。そうだね。須磨さんのこと…、ううん。雛鶴さんとまきをさんのことも…よろしくお願いします。天元が支えてあげてね。」
「まぁ…大丈夫だろ。帰って来れば、この間のことなんてすぐに忘れるわ。お前は刀鍛冶の里でしっかり患者を治すことと無事に此処に帰ってくることだけを考えてりゃいい。」
余計なことに気を取られて無理だけはしてほしくないのだから。
地獄のような雰囲気になってしまった夕食を終えて、ほの花の部屋に戻ってきていた俺たちは明日からの準備をしていた。
須磨に悪気はないが、ほの花は底抜けに優しくて、一人で抱え込む気質の人間だ。
あの号泣が彼女の中でちゃんと割り切れているか心配だったので、その日は彼女を布団の中で抱きしめて寝た。
いつもならばもう一度くらい抱くところを少しでも抱え込まないようにと必死に掻き抱いたのだった。