第26章 君の居ない時間※
行くな、行くなよ…。
ほの花を失うかもしれない恐怖が消えない。
鬼狩りではなく、流行病でこんな事態になるとは思わなかった。
現状は柱であろうと役に立てるものではない。
ほの花が言っていたことに嘘偽りはないだろう。だからこそ何もしてやらない自分が歯痒いし、逆に共に行ける正宗達が心底羨ましい。
流行病が蔓延して救援依頼が来た刀鍛冶の里に赴くのはまさかの自分の婚約者。
いくら予防接種を受けていたとしても罹患することはあると言う。
ならば…行くなと言えればどれだけ楽だろうか。
本心では行かせたくない。
ほの花を連れ立って何処かに隠してやりたいくらいだ。
しかし、自分は鬼殺隊の柱でお館様に仕えている以上、自分の継子でもあるほの花が頼りにされて任されたのであれば喜ぶべきかもしれない。
そんな長い期間離れるのも嫌だし、危ないところに行くのも嫌だ。
何もかも嫌過ぎて自分の心が荒れ狂っている。
だから彼女を部屋に引き摺り込み、気持ちを押し付けるように口づけをして何とか落ち着こうと必死な俺。
そんな情けない自分の背中を優しく撫でてくれるが気持ちが収まることはない。
「…天元、必ず戻って来るよ。約束する。」
「行かせないって言ったら…?」
この時、俺は本気で連れ去って二人だけで生きていけばいいのではないか?と一瞬思ってしまった。志半ばなのに何という裏切り行為だ。
情けなくて後から後から後悔の念が押し寄せる。
「…そんなことできないの知ってるよ。天元は柱として責任を持って任務に当たってるじゃない。大丈夫だよ!私、運だけは良いの!必ず生きて帰ってくるから。」
「…本当は行かせたくねぇよ。腕の中に閉じ込めて監禁してやりてぇくらいだわ。」
「こわいこわいこわい…。やめてよー。」
苦笑いを浮かべるほの花だけど、俺は立場的な問題がなければ間違いなくそうしていると思う。
どれだけ会えないかわからないのにその間に彼女の気持ちが離れてしまわないかというのも怖いし、万が一の事態を考えるのも怖い。
愛し過ぎて、自分に不可欠な人間すぎて、心の底から震え上がるほどの恐怖しかなかった。