第26章 君の居ない時間※
「それから天元。ほの花を暫く借りることになってしまい申し訳ないね。こんな短期間で優秀な継子になってくれて僕も嬉しいよ。君のおかげだ。ありがとう」
「…身に余るお言葉です、お館様。これは彼女の努力の賜物であり、元よりの才能が開花したにすぎないでしょう。ですが、師匠としてとても鼻が高いです。ありがとうございます。」
宇髄さんの言葉に少しだけ鼻がツンとした。
師匠としても彼は忙しい中で鍛錬に付き合ってくれるし、間違いなく実戦で戦えるようになったのは宇髄さんのおかげに他ならない。
本当は…嫌だ、行かせたくないと思ってくれているんでしょう?
でも、心に蓋をして一生懸命自分を抑えている彼の表情は窺い知れないが、空気で伝わってくる。
産屋敷様も
宇髄さんも
私のためを想っての発言だ。
だからこそどちらも不本意なところを隠して、納得しようとしてくれているのだろう。
本当にありがたい。
「ほの花への鎹鴉の伝令も禁止とする。鴉を媒介にして菌が変異する恐れがあるようなんだ。連絡方法は追って柱全員に知らせよう。では、今日はこれにて解散とする。ほの花は準備出来次第宜しく頼むね。」
「は、はい!産屋敷様。」
宇髄さんの後ろで深く頭を下げて、彼の足音が聞こえなくなるまで地面の石を見つめていた。
ゆっくりと体を起こし、前を見ると呆れたような顔をした宇髄さんが私を見下ろしていた。
そして周りには柱の皆さんがこちらに注目していたのでビクッとしてしまった。しかも全員口元を覆ったままなのも不安を煽る一端だ。
「…決まっちまったもんはしかたねぇけどよ。あんま無茶すんなよな!死んだらぶっ殺す!!」
「…久しぶりにその発言聞きました。怖いですよー。」
「まぁまぁ、痴話喧嘩はその辺にして暫く会えないのだから今日はお二人とも仲良く過ごしてくださいね。ほの花さん、宜しくお願いします。こちらは私に任せてください。」
そう言うしのぶさんだけど、私なんかよりも彼女に任せた方が遥かに頼りになるので全く心配していない。
どちらかといえば自分が刀鍛冶で役に立つのかということの方が遥かに不安だと言うのに。