第26章 君の居ない時間※
"予防措置と言うものはやり過ぎだと思われるくらいで丁度いい。"
母がよく言っていた言葉だ。
此処に帰って来るまでの間に誰にも会わず、誰もいてほしくないので一週間そこで過ごせるだけの食糧や水、衣類等を準備して欲しかった。
そこでの自主隔離一週間を終えてやっと終息したと言えるのだ。
私たちが菌を運んだ上、町中に集団感染が起これば医療者として後ろ指を差されるような失態。
「それは家とかでいいのかな?」
「そんな大層なものでなくとも、雨風を凌げて一週間だけいるための掘建小屋で構いません。衣食住の準備をしてくださるとありがたいです。」
「分かったよ。ほの花達が発ったらすぐに準備を始めよう。」
「宜しくお願い致します。あとは連絡は鎹鴉も飛ばしません。彼らが媒介となり、細菌が変化してしまうと更なる違う型のスペイン風邪が流行する恐れがあります。出来るだけ手紙にて状況をお伝えします。時間と場所を決めてそこに状況を書いた手紙を置いておきます。それを必ず一人の人間が運ぶようにしてください。そしてその人は感染対策を十分にするようにお伝え頂けますか?」
念には念を、だ。
産屋敷様に一ヶ月半ほどの薬を大量にお渡しするとあまりの多さに流石に笑っていらっしゃったけど、彼の病状を一ヶ月も看られないなんてかなり心配だ。
もちろんスペイン風邪に罹患した人たちも心配だが、罹ってしまったものはあとは対症療法しかないのだから腹を括るしかない。
薬の調合を終えて、薬箱を持ったら今までにないほど軽くて苦笑いをしてしまったが、既に整列している柱の方の後ろに並んで跪いた。
どうやら全員重篤な副反応はなさそうだ。
良かった。こればかりは体が丈夫でも体質なので注意が必要だったが、大丈夫そうで一安心した。
再び産屋敷様が立ち上がり、此方を見ると話し出す。
「では、ほの花に刀鍛冶の里へ行ってもらっている間、なるべく任務での感染対策をしっかりするように頼むね。」
「「「「御意!!」」」」
慣れてない私はうっかり御意を言えなくて後ろであたふたして遅れて頭だけを下げる。