第1章 はじまりは突然に
私が彼を気になったのは、彼が私と同じ能力を持っていたのではないか思ったからだ。
母から言われてる通りあまり大っぴらに能力を使ってはならない。
それはもちろん悪用されないためでもあるが、この能力はとても疲労を伴うもの。
一度、兄が大怪我をしたときにこれを使って治したら私は三日間高熱にうなされて床に臥せたのだ。
それ故、無闇に使ってはならないと両親にきつく言われていた。しかし、この不思議な能力は何だろう?と思い、私は森の動物たちが傷ついた際にコソコソと使ったりして能力の真相を探った。
その甲斐あってか、勿論不明な点のが多いのだが、傷を治したりすると自分に振り被るのはその重症度によって返ってくる振り被りが比例するということが分かった。
だから彼が今、私のせいで体調を崩してないから心配でたまらなかった。
母が死に際にあそこまで私に能力を使うなと言ったのはそのため。あの場で使っていれば自分は死んでいたかもしれない。瀕死の重体だった母とて長くは生きられなかったであろう。
助けられなかったことで心身に支障をきたし、結局は体調を崩してしまってはいるが、あそこで止められたのは意味があることだと思いたい。
家族の死を無駄にしたくない。
(産屋敷様に会ったら少し彼を探してみよう。ひょっとしたら産屋敷様が知っていらっしゃるかもしれない。)
あれからずっと気分は落ち込み、食欲もなく、夜も眠れない。眠ったとしても悪夢で起きてしまい碌に睡眠も取れていない。
そんな満身創痍な状態だったが、先ほどの出来事で少しだけ心が軽くなった気がしていた。
重い足取りは変わらないが、足元を見ていた目線はしっかりと前を見据えている。
彼のおかげと言って過言ではないと思う。
私は幾分か軽い歩みで産屋敷邸へと急いだ。