第1章 はじまりは突然に
「御礼とお詫びをしたいのに名前も知らないの。どうしよう…。」
結局のところそこに行き着く。
幾分吐き気が治まっていたから食べ始めたうどんもやはりいきなり完食とまではいかず、隆元が残りを食べてくれた。
三人は私が起こしてしまった事象に顔を引き攣らせながらも「そうですねぇ…」と考え込んでしまう。
「その方の特徴は?」
「物凄く大きかった。恐らく…6尺は有に超えていると思う。」
「そんな大きい方ならばすぐに見つかりそうですが…」
「そうなんだけど…あたりを見回してもどこにも居なくて…。」
私が店の中に入った時間など多く見積もっても数十秒。その間に姿を消すことができるなんてよっぽど足が速いのだ。
そうでなければそこから姿を消すなんてことはできない。
「他に特徴はないですか?」
「…え、と…派手な装飾を付けていたけど随分美丈夫だった。」
「そのような男性なら街の人が知っていそうですが…。」
「…確かに。聞いてみようかな。」
大進の言葉に納得すると、配膳をしているおそらく店主の奥様であろう女性に声をかけて聞いてみたが、"見たことあると思うが名前までは知らない"と言われてしまう。
しかし、彼女の言葉は至極真っ当だ。
商いをしていても名前を聞くことなど殆どないはずだ。よほどの常連様やお得意様ならば話は別だが、たまに来る客の名前など聞くこともないだろう。
私たちは女性に御礼を言うと会計をしてその場を後にした。名前を聞いたところで住んでいるところまで知ってるわけがないし、個人情報を聞き出すようで少し気が引けた。
大荷物を抱え直すとまずは産屋敷様のお屋敷に向かい、歩みをすすめた。
今回の経緯とこれからのことを相談しなければ。
彼の手の温もりはまだ背中に残っている。もしまた彼に会ったら今度はちゃんとお話をしてみたい。