第26章 君の居ない時間※
「もちろん、構わないよ。そもそも灯里さんは月に一回だったけど、ほの花がその間隔を狭めたのは逐一薬を変えてくれるからだよね?手厚くやってくれてありがとう。」
手厚くなんて大それたものではない。
母と違い、わたしは薬師としての経験は少ないのだからこまめに様子を見ないと不安なのだ。
ちゃんと調合した薬は効いてるだろうか?副作用とかは大丈夫か?
そんな小さなことでも気になって仕方ない。
それだけのこと。
「天元を怒らせてしまったかな?ごめんね。僕が君を頼りにしてしまったばかりに。」
「あああ…!ち、違うんです!きっと彼は心配してくれてるだけで…きっちり説得しますし、大丈夫です。産屋敷様のせいではありませんので。」
心配そうにそう気遣ってくれる産屋敷様はいつもの彼で少しだけ安心した。
あんな風に柱の人の前に出ると凛とした佇まいで益々遠い存在に感じてしまったが、いま目の前にいるのはいつものわたしの患者さん。
少しだけ肩の力が抜けるといつものように調合を始めるが、今回はいつ帰ってこれるか分からないのであらゆる事態を想定していつもの5倍以上の薬を準備して、その全てにどのような時に使用するかも事細かく記載して渡すことにした。
何かあった時に、一目で見てわかるように今の段階でできることは全てやってから行かなければ性格的に納得できないのだ。
「…ほの花、君も無理はせず何かあったら遠慮なく言ってくれ。こちらで出来ることがあれば何でもしよう。」
「ありがとうございます。心強いです。では、一つお願いがあります。聞いていただけますか?」
「もちろんだよ。何だい?」
私が行くことで対症療法ができるので助かる人は格段に増えるとは思うが、それと同時にわたしは保菌者になる。
予防接種を何年も続けて打っているので発症は恐らくしないと思われるが、保菌したまま此処に帰ってくることはできない。
だから此れは確実にお願いをしたいことだった。
「刀鍛冶の里のスペイン風邪が終息したら私たちは一週間の自主隔離に入らなねばなりません。そのための療養できる場所を準備していただきたいのです。」
それは私たちが確実に菌を持ち込まないための最後に行う予防措置だった。