第26章 君の居ない時間※
「…こ、怖いですよ、宇髄さん。顔が…。」
周りに聞こえないように極力小さな声で彼にそう言えばジト目で睨みつけながらそれはそれは地を這うような声で苦言を呈してきた。
「此処でやんややんや言うつもりはねぇけど、テメェ…、勝手に決めやがって…どうなるか分かってんだろうな…?」
「だ、だって…!仕方ないじゃない…!他に方法ないんだから…。」
「だとしてもいつもいつもいつもテメェは勝手に決めて俺がどれだけ心配してんのか分かってんのかよ。ちゃんと生きて戻ってくるってもちろん確約できるんだろうな?」
その目はまさに凶器そのもの。
私が"確約出来ません"なんて言おうものならこの場で暴れ出すのではないか。
いや、いくらなんでも産屋敷様の御前でそんなことしない?でも、誰よりも恐ろしい顔をしている彼は誰よりも大好きな人で…パニックになりながらも私は彼の腕にエタノールを塗った。
「ちくんとしますよー。」
「…今すぐお前の下の口に太いの注射してやろうか?」
「ちょ、なんてこというのーー?!」
「うるせぇ!お前が悪ぃだろうが!!」
「今のは私悪くないじゃないですか!!」
突然の卑猥な発言に苦言を呈するのは仕方ないと思うのに、彼はまだ私に突っかかってくるので思わず立ち上がって二人で口論が始まってしまう。
しかし、隣で同じように注射をしていたしのぶさんが「宇髄さーん?ほの花さーん?お館様の御前ですよ?」と優しい声色なのに目が笑っていない姿を見て、慌てて二人で座り直した。
「重篤な副反応がないか15分間待機してください…。」
「…お前、あとで覚悟しとけよ…?」
あああ…怖い。
怖すぎる。
彼のその言葉はスペイン風邪に勝るほど別の脅威を感じる。
「ほの花さんと宇髄さん相変わらず仲良いね!お願いしまーす。」
後ろに並んでいた無一郎くんが目の前に座るとその天使みたいな笑顔で私の心に恵みの雨をもたらせたような感覚に陥った。
なんて可愛い子なんだ。いい弟を持った。
でも、今のアレを見て仲が良いと思えるなんてなかなか強者だとおもう。
どう見ても下世話な口論だ。