第26章 君の居ない時間※
とりあえず、決まったことは刀鍛冶の里へは私と護衛三人が先行して向かい、治療にあたる。
そして必要ならば二週間後にしのぶさんが来てくれるが、それまでに対処ができればこちらで何とかする。しのぶさんは忙しいのだからできるだけ自分達で何とかしたい。
基本、柱は刀鍛冶の里へは近付かない。
隠や医療班、階級の低い剣士は出入りをしたら一週間隔離。発症しないか確認が取れるまで人との接触は避ける。
「では、順番に柱の方に予防接種をしますので腕を捲っておいてください。」
持ってきた予防接種のアンプルを注射器で抽出すると綺麗な布の上にそれを並べていく。
それを見たしのぶさんが「先に私に打ってください。手伝います。」と言ってくれたので、一足先にしのぶさんに接種をした。
副反応がでる可能性もあるが、すぐにでることはないので今は大丈夫だろう。
「神楽さん、宜しく頼む。」
「あ、はい!」
宇髄さんより大きいその人に見下ろされて一瞬怯んだが、声色も雰囲気も優しいのですぐに持ち直す。
よく見たら…目が見えないのだろうか。
それなのに柱で、尚且つ私との距離感を完璧に把握しているのはすごい。
これを把握するのに恐らくかなりの時間と労力がかかったことだろう。
筋肉で硬くて太い腕に消毒を施すと真っ直ぐにその注射を打ち込み、薬剤を注入していく。
すると、徐に彼が話しかけてくれた。
「先程はすまなかった。気を悪くしたんじゃないか?理由も知らなかったのに失礼なことを言ってしまったな。申し訳ない。」
「…え?あ、いや、えっと…!そんな!」
「だが、君の知識には恐れ入った。全面的に君に協力しよう。刀鍛冶の里は宜しく頼む。」
正直、悲鳴嶼さんが謝ってきたのが何のことなのか…?わたしはよく分からなかったが、口元を覆えといったときのことだろうか?
だとしても謝られるようなことでもないので、彼はとても律儀な人なのだと分かり、それだけで物凄く好感度が上がった。
「ありがとうございます。15分間待機していてください。重篤な副反応がないか確認します。」
そう言うと深々と頭を下げて近くで腰を下ろした彼を見送ると、悍ましいほどの雰囲気を醸し出す一人が私を見下ろして腕を組んでいた。