第26章 君の居ない時間※
「…それは使える段階ではないということかな?」
「…その通りです。母の調合を信じていないわけではありませんが…、残念ながら治験もしていないものを人間に直接投薬するのは…はっきり言ってとても怖いです。…私が見ても人体に吉と出るか凶と出るか分からない薬剤も含まれていて…現実的ではありません。」
薬は病気や症状を治すためにあるもの。
しかし、使い方によっては毒にもなり得る危険なものだ。
健康な人が使うと害になるものもある。
使い続けて体が弱ってしまうこともある。
だからこそ私は産屋敷様の調合には人一倍気を遣っているし、母もそうだった筈だ。
「じゃあ、ほの花が薬を完成させるっていうのも難しいんかよ?」
再び不死川さんの声が聞こえてきたが、やはりその内容も現実的ではない。
私は彼に向けて頷くと頭を下げた。
「…ごめんなさい。もちろん出来ることならばそうしたいのは山々ですが、未知なる感染症の新薬の開発はそれ相応の設備と時間がかかります。年単位の研究と治験をして漸く実用化するのが道理でしょう。それならば、私がわざとスペイン風邪を罹患して母の新薬を自分の体で試すと言う方法も…」
「それはやめろ。俺が許さねぇ。」
突然、口を挟んだ宇髄さんだが、その顔は至って真剣で柱の皆さんも産屋敷様も頷いてくれている。
「…もちろん、分かってます。それはどちらにしろ出来ないと言うつもりでした。此処まで皆さんを怖がらせておいて今更ですが、刀鍛冶の里と言うのは要するに鬼殺隊の武器の調達地ということで良いですか?私、初めて聞いたもので…。」
突然、そもそも"刀鍛冶の里とは?"という私の質問に全員の肩の力が抜けたようにズッコケてしまったが、たかだか薬師の端くれで、継子だ。
鬼殺隊内での知らないことは多いのは当たり前で、ずっとそれはどこなのだ?と考えていた。
「ああ、ごめんね。ほの花。そうだよ。刀鍛冶の里は鬼殺隊の日輪刀を作っているところなんだ。場所は非公開だし、君は元々此処に来る前から日輪刀を持っていたから知らないのも無理はないよ。悪かったね。」
ただ質問しただけなのに産屋敷様に謝らせてしまって慌てて私も頭を下げ直した。