第26章 君の居ない時間※
私の質問に少し微笑み首を振る産屋敷様にホッと一息をついた。
「いや、僕は直接は接していないよ。何人もの人伝にそれが回ってきたんだ。」
「良かったです…。」
それだけでもまずは鬼殺隊の存続に関わる問題は解消したといえる。
産屋敷様がいま倒れるわけにはいかないのだから。
私は黙ったまま懐から手ぬぐいを持ち出して無言で口元を覆い再び彼と向き合う。
「…まずは全員手拭いで口元を覆ってください。話はそれからです。」
「それはどう言うことかまずは説明してくれないか、神楽殿。君が優秀な薬師と言うのは分かったが、藪から棒に口元を覆えとは…。」
悲鳴嶼さんが私を見て訝しげな表情を向ける。
確かにその気持ちもわかる。
急にそんなことを言われても困るだろう。だが、喋ることでも幾らかの危険性があると言える。
まずはそれが先決なのだが、それを伝えようとすると私より先に宇髄さんが話し始めた。
「まぁ、悲鳴嶼さんよ。ほの花がこう言ってんだ。まずは言う通りにしよう。俺の継子だが、薬師に関しての腕はお館様もお認めになるほどだ。」
そう言うと、こちらを向き笑顔で手拭いで口を覆ってくれた。
それに倣うように他のみんなも次々と口元を覆ってくれたので、既に口元を覆ってくれていた産屋敷様に再び向き合った。
「…皆様、ご協力ありがとうございます。では、私の見解を述べさせていただきます。
この書物は看護記録でした。刀鍛冶の里でどうやら流行病が蔓延っているようです。」
「流行病…?ですが、それは刀鍛冶の里のことでしょう?此処まで必要ですか?」
「私がこの看護記録を見るにたった一人の患者から五日後に何十人の患者にも膨れ上がっています。恐らく感染経路は飛沫感染。菌を持った患者の咳からの感染かと思われます。その感染速度も感染してからの症状の悪化度を見るだけでも私が知る限りの最悪な感染症の症状と酷似しています。」
そう、母が言っていた。
この感染症が日本に入ってきたら爆発的な感染をして死者が相次ぐと。
だから物凄く対策を講じてきたのだ。
「その感染症は異国、スペインにて大流行したスペイン風邪だと思われます。」
私の背中に冷や汗が伝っていく。