第26章 君の居ない時間※
五月十四日
運び込まれた患者と接触したことのある人間が次々と患者として運び込まれてきた。
皆同じ症状だ。
何かがおかしい。こんな風邪は見たことない。
感染力が強すぎる。
一体何が起こっているのだ。
もう私一人では手が回らない。
今日は最初に運び込まれた患者の子ども以外の家族が全員死亡した。
五月十五日
ついに自分にも風邪症状が現れ始めた。
もう止められない。
誰か助けて──
看護記録はそこで終わっていた。
僅か五日の看護記録。
既に日付は二週間ほど前の話だ。
それだけ見ても強い感染症だと言うことが分かる。そして…母が恐れていた感染症の名前が私の脳裏に過ぎった。
まさか…そんな。日本に入ってきたの?
看護記録を閉じたまま、固まっている私を見て産屋敷様が話し始めた。
「柱のみんなに伝えないといけないことはね。刀鍛冶の里のことなんだ。」
「刀鍛冶の里のこと…?と申しますと…。」
この声は不死川さんだ。
私は看護記録から目を上げてゆっくりと産屋敷様に目を向けた。
「うん。実はね、刀鍛冶の里の業務が事実上…停止している状態なんだ。要するに刀を作ることが出来ない。」
「な!それは本当ですか…?一体何故…!鬼に襲われたのですか?」
「いや。鬼じゃないんだ。僕もその知らせを受けたのは昨日のことなんだけど、その時に隠が託された書物が…今、ほの花が持っているものだ。」
すると再び私に全員の視線が向けられた。
だが、今は緊張なんてしている場合ではない。
一刻を争うことだから産屋敷様は私にこれを見せてくれてのだと思う。
「ほの花。君は僕が知る限りで稀に見るほど幅広い知識と技術を持った薬師だと思っている。そして、君の母である灯里さんも。それを読んだ君の見解を聞きたい。」
そうだ。
産屋敷様はこれが危機的状況だということをわかっている。
だから私もここに呼んだのだ。頼りにしてくれてるのだ。
私は脳裏に浮かんだ病名を奥歯で握りしめると産屋敷様を見つめた。
「…一つお聞きしても宜しいでしょうか?産屋敷様はその隠と接触されましたか?」
だが、まずは産屋敷様の安全の確認が先だ。