第26章 君の居ない時間※
「皆さま、お館様のお成りです。」
その声が聞こえると皆一様に並び、跪く。
流石に柱の隣に並ぶのは気がひけるので宇髄さんの後ろに同じようにして首を垂れる。
こんな風に産屋敷様に会うなんて初めてのことだなぁ。
いつもは私のことを娘のように優しく接して、穏やかな時間を過ごすから、やはり彼は凄い人なのだと改めて感じた。
彼の足音が聴こえるとその足取りから今日の体調が悪くないのだと分かり、ホッと一息吐いた。
此処に来るまでひょっとして彼の体調が悪くなったのではないか?と気が気でなかったのだ。
「よく来たね。突然の呼び出しをしてしまってすまなかったね。」
うん、声も変じゃない。
喉が痛いとかそう言うのでもなさそう。
しかし、そうなると益々私が呼ばれた意味が分からない。
「お館様におかれましても御壮健で何よりです。我々がお役に立てることならばいつでもお申し付け下さい。しかし、今回は呼ばれたのが柱だけではないのはどのようなお考えかお聞かせ願えますか?」
悲鳴嶼さんと言う大きな人が私の方をチラッと見て産屋敷様にそう言っているのを聞くと、あまり話したことがないのもあるが、此処に私がいることが不満だと思っているのだろうか?
少しだけしょんぼりと項垂れてしまうと宇髄さんが後ろをチラッと見て一度だけ頭を撫でてくれる。
たったそれだけなのに彼のぬくもりを感じただけですぐにホッとできるのは私が心から宇髄さんを好きで信頼しているからだろう。
「そうだね。ほの花がいることにみんな驚いたよね。だけど、今回はほの花に一番用事があったんだよ。」
「…え…?」
みんなが一斉に私に注目するので驚いて目線を下げる。
私に用事なら今週の薬の調合の時に言ってくれたらいいのに。
柱全員の前での公開処刑のような気持ちだ。
心の中で恐れ多くも産屋敷様に苦言を呈すると産屋敷様が私に向かって話しかけてきた。
「ほの花。」
「は、はい…!」
「今回は君と灯里さんの力を借りなければいけないかもしれないんだ。話を聞いてくれるかい?」
優しい表情はいつものこと。
でも、彼の口から聞いたのは久しぶりの母の名前。
そこを聞いただけでも彼が望んでいるのが私たちの薬の知識なのだとピンときた。