第26章 君の居ない時間※
「宇髄さんと…私も?」
柱である宇髄さんが産屋敷邸に召集されるのは柱合会議の時くらいだけど、今日は柱合会議ではない。
そして私はそれと打って変わり毎週産屋敷様のところへ行き、薬の調合をしている。今週はまだ行っていないが、柱の方よりも産屋敷様との会う頻度は高い。
しかし、たかが薬師で継子の私が柱の宇髄さんと産屋敷様のところへ呼び出されるなんてことは今までで一度もない。
それほどまでに柱は雲の上の存在で、産屋敷様なんて薬師でなければお会いすることすらないほどもっともっと雲の上の存在。
私はたまたま運が良くて、二人に近しい間柄だが、その存在の偉大さは分かっているつもりだ。
柱と一緒に呼び出されたことでかなり狼狽えている私とは相反して、宇髄さんは大した緊張感もなくこちらを見て頭をポンと撫でてくれた。
「みてぇだな。よし、行くか。」
「え、あ、う、うん…!き、緊張するーー!」
「は?何で?」
「だって…!宇髄さんの継子として恥ずかしくない立ち振る舞いをしないと…!!」
宇髄さんに恥をかかせないように頭の中では壮大な未来の物語が構築されつつあるが、今更無い袖は触れない。
産屋敷様にだけ変な姿を見せなければいいのだ…。
「そんなことよりお前は俺の妻になることだけ考えとけ。」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないーー!!」
「そんなことだと?!俺に取っては派手に一番大事なことなんだぞ?!訂正しろ!!」
いや。もちろん私だって大事なことだと思っているが、今は目の前にある自分の課題で頭がいっぱいなのだ。
師匠であり、恋人でもある宇髄さんと、当主であり患者さんでもある産屋敷様と会うのだ。
やらかさないように慎重になるのは当たり前だと思う。
「わ、わかったよぉー!ごめんなさい。だから…とりあえず今は緊張させてよぉぉーー!!」
私の悲痛な叫びも虚しく、宇髄さんはぷりぷりと怒ったまま私を見ていたが、虹丸君に促されたことで漸く諦めてくれたようで外に向かって歩き出した。