第26章 君の居ない時間※
変質者付き纏い事件から一週間後、漸く元の生活に戻っていた。
ほの花との関係も特に変化もなく過ごせている。
一時、ほの花があまりに遠慮深いからまさか元嫁達のことを気にして、婚約解消したいとか言ってくるのではないかとヒヤヒヤしたが、そんなことを言ってくることはなかった。
正直、ホッとした。
せっかく別離期間を乗り越えて再び婚約者にしたと言うのに、今更元嫁達に遠慮されて婚約は出来ないなんてことだけは避けたい。
それならば今すぐにでも婚姻を結びたいくらいだ。
言質を取ったくらいではぬるい。
ほの花は既成事実を作らないと永遠に申し訳なさと闘っている気がしてならない。
「天元ー、おーい。天元ー?起きてるー?」
「んぁ?!あ、ああ。起きてる起きてる。悪ぃ。」
突然ほの花が俺の顔を覗き込んで来たことで驚いて仰反った。
しかし、考え事をしていたせいでぼーっとしていたようだ。心配そうに覗き込むほの花に笑顔を向けるが、その顔に変化は見られない。
「ううん。体調でも悪いの?大丈夫?」
「いや?全く。ほの花のこと考えてただけ。」
「え?私のこと?なぁに?」
「ちゃんと俺と結婚してくれっかなぁ?って。」
思ったよりも近い位置にある顔に手を添えるとじぃっと見つめれば、やっとふわりと笑ってくれた。
ぼーっとしていたが、たまたま非番だった俺はちょうど薬箱の整理をしていたほの花を手伝っていたところだったのだ。
「えー?変なのー。大丈夫だよ?天元が私のことをお嫁さんにしたくないって言われるまでそのつもりだよ。」
「俺がそんなこと言うわけねぇだろ。馬鹿なのか?」
まるで俺が心変わりするかのようにも取れるその言葉にムカッとして頬を摘んでやった。
「いひゃいいひゃいー。なんでおこりゅのー。」
「絶対お嫁さんになる!って言え。それ以外は受け付けねぇ!!」
「なにそれー!横暴だよー!!」
反論するほの花の頬を摘んだまま、攻防を続けていると突然虹丸と音花が二羽揃って入ってきた。
「音柱トほの花ーーッ!スグニ産屋敷邸へ向カエーー!!」
「「え?」」
当然喧嘩はすぐに終了。
俺とほの花は顔を見合わせて首を傾げた。