第25章 甘える勇気
「あの、女将さんにお願いがあるんです…!」
「ど、どうしました?」
急に腕を掴まれたことで驚いた顔をさせてしまったが、私の表情を見て首を傾げながらも隣に座ってくれた。
彼女に助言を求めることは反則だろうか?
でも、宇髄さんはお洒落だし、派手好きだし、好みも全く分からない。
何なら私の感性など大したことないのだ。
どれだけ考えても変な物を買って、顔を引き攣らせることしか頭に浮かばないのだ。
「実は…彼にもお礼したいから何か欲しい物ないか聞いたんです。そうしたら何でもいいから私が選んだ物がほしいって言うんです…!私、本当にお洒落に無頓着で…分からないから朝から途方に暮れてしまって…。」
「ふふふ、それで難しいお顔をされていたんですね?ほの花さんらしいですね。」
そう言って笑う女将さんは母のような暖かさを感じて、悩んでいたのに少しだけホッとした。
「では、あのお嬢さん達が選んでいらっしゃる間に宇髄様にも浴衣を選んで差し上げたら如何ですか?きっとほの花さんが選んだ物なら何でも喜ばれると思いますが、微力ながら助言できそうであればさせてもらいますよ。」
何という幸運なのだろうか。
女将さんの助言なんて、今の私からしたら喉から手が出るほど欲しいもの。
「是非お願いします!」と懇願するように言うと、男性物の浴衣の生地をいくつか持ってきてくれた。
「左から縦縞しじら、紗綾形、麻の葉繋ぎです。まずは柄を選んで頂いて、その後色を決めましょう?」
どれも素敵だし、宇髄さんってどの柄も簡単に着こなしてしまいそうだ。
逆に何を選んでもいいのではないか?
女将さんが変な物を持ってくるわけがないし、そこまで気にしなくても彼の容姿なら心配ない気がする。
少しだけ肩の荷が降りると生地を見つめる。
縦縞しじらは、主張が少なめで表面が波打っていて夏っぽい。でも、地味かなぁ…。
じゃあ、紗綾形?細かい卍を押し潰したような柄で上品な感じ。
柄だけ見ると麻の葉繋ぎが一番派手だけど、何だかしっくり来ない。
いや、似合うと思う。
似合うと思うけども!!
宇髄さんの顔を思い浮かべながら必死に柄を合わせて想像する作業ははじめてのことだけど、とても幸せな作業だった。