第25章 甘える勇気
「あ、宇髄様。ほの花さんのお着替え終わりましたよ。」
奥から女将の声がしたかと思うと、ほの花の着替えが終わったと言うので立ち上がり、小上がりを上る。
「おー、今行く。オヤジ、ご馳走さん。嫁んとこ行ってくるわ。」
「いえいえ。どうぞごゆっくり。」
ほの花の様子が変な気がして、俺までわけのわからない考えに取り憑かれていた。
考えても仕方ない。
ほの花は俺の女であることは今もこれからも変わらない。二度と離れないと決めたのだから。
女将の後ろをついて行き、前と同じ部屋に通されるとそこにいた女に目を奪われた。
「あ、天元!!すっごく可愛いの!ありがとうね!」
その浴衣は俺が選んだ。
ほの花に似合うと思ったから。
だけど、まさか此処までとは思わず、感想も言えずに佇んでいた俺にクスクスと女将が笑い出す。
「まぁ、ふふふ!宇髄様、固まってますよ。お気を確かに。」
「へ、あ、ああ…あー、と…。」
「え、ひょっとして…ちょっと天元的に違った…?」
「ち、ちが…!悪ぃ…めちゃくちゃ綺麗で言葉が出ねぇんだわ。」
やっと出た賛辞にほの花がはにかんだ笑顔をしてくれるが、それもまた可愛くて腕の中に閉じ込めてしまいたくなった。
「天元が選んでくれたからだよ。ありがとう!すごく気に入った!」
「では、宇髄様。惚けるのもそれくらいにして、小物を見ていただけますか?」
そう言うと女将が所狭しと並んでいる小物類をほの花に身につけ出した。
正直、これ以上装飾なんていらねぇだろと本気で思ったが、付けたら付けたで可愛い。
普段着飾ることも殆ど無いし、何かをねだられることもないので似合う物を合わせて購入することにした。
(…マジで天女かと思ったぜ…)
ほの花が何着ても似合うことくらいわかっていたが、まさかこれほどとは思わなかった。
浴衣くらいでこんな狼狽えていて、婚礼衣装など着た暁には俺は暫く立ち上がれないのでは無いか?
首筋から見える紅い痕のことをうっかり失念していたが、頸から見えるそれが妙にいやらしくて唆る。
こんなところでどうこうできるわけでもないので俺はほの花を暫く見つめ続けていた。