第25章 甘える勇気
「婚約者様、いつ見ても本当にお綺麗ですね。宇髄様ととてもお似合いです。」
「まぁな。俺が選んだ女だぞ?当たり前だろ。」
ほの花のことを褒め称える店主に鼻が高くなる。
だが、今日のほの花は何だか少し変だ。
いつもより情緒不安定というか、心此処に在らずと言った様子。
まぁ、あんなことがあった後だ。
仕方ないか。
「今年の花火大会が楽しみですね。」
「そうだな。アイツさ、花火見たことねぇんだってよ。だから見せてやるの楽しみなんだわ。」
「それはそれは宇髄様も喜ぶ婚約者様の顔を見るのが楽しみでしょうね。」
前に此処に来た帰りに"花火を見たことがない"と言っていたほの花。
確かに里では花火大会などやらないだろう。
隠れ蓑としていたのにド派手な花火などするわけがない。
多くの年頃の女が経験するようなことを殆ど経験せずに大人になったほの花。
だからこそ、俺がいろんな願いや夢を叶えてやりたいと思うのにいつまで経っても彼女に欲は出てこない。
最初は遠慮しているだけだと思っていたが、どうやらそれだけじゃない。
そばに居るのに何故こうもほの花が遠く感じるのだろうか。
その理由が分からない。
遠く感じることがある…というだけで、四六時中そう感じるわけでは無い。
実際には隣で屈託もなく笑っていることも多いし、甘えてくることもある。
だけど、ふとした瞬間にほの花が遠く感じるのだ。
分からないけど、あの別離期間以降、俺たちの関係性は頗る良かったし、そこに綻びは少しも無いと言える。
別れたいとはこれっぽっちも思っていないことだけは分かるから、やはり気のせいなのかもしれない。
気にし過ぎても仕方ないか、と俺は特に深く掘り下げることもなかった。
だからそれに気付いたのはずっとずっと後のこと。
その時にはもう取り返しのつかないことになって、彼女を傷つけてしまった。
この時、ちゃんとほの花と膝を突き合わせて話をしていたら違った未来があったかもしれない。
人生は選択の繰り返しだ。
間違えたのならば取り返せばいい。
何度だって
何度だって
俺は君に恋をするのだと言い切れるのだから。