第25章 甘える勇気
自慢ではないが、私の恋人は凄く感性がいいと思う。私でも知らなかった自分の良さを引き出してくれるそんな人。
「あら…。本当に素敵だわ。よくお似合いです。ほの花さん。」
「ありがとうございます…。」
選んでくれた浴衣は私でないみたい。
自分だったらとても選ばないような色で柄だけど着てみたら自分の顔とよく合っている気がして彼の感性の良さに舌を巻く。
「宇髄様を呼んできますね。」
女将さんがそう言って宇髄さんを呼びに行ってくれたけど、どこからどう見ても素敵な浴衣。私なんかには勿体無い代物。
でも、彼が私のために仕立ててくれたことが嬉しくて顔を綻ばせた。
万が一、自分が死んだら…なんて考えることはしないけど、この幸せがまるで夢なんじゃないかと思ってしまうことがある。
そうでなければ私がこんなにも幸せになれるなんて夢にも思わなかったことで、考えれば考えるほど不思議で仕方ない。
素直に喜びたいと思う反面、そうできないのには三人の奥様に対する後ろめたさがどうしても消せなかったから。
何度も何度も考えないようにした。
折角宇髄さんと一緒になる機会を下さったのだから…と必死に考えないように。
でも、本当ならば此処にいたのは彼女達で、幸せをぶんどってしまったのではないかと考えると胸が苦しくなる。
人を踏み台にしてまで幸せになることが果たして正解なのだろうか。
もちろん生きていればそれ相応のことは何度となくあるだろう。
だからと言って何の綻びもなかった四人の仲を引き裂いた自分の存在がどこか許せないでいた。
宇髄さんを好きになればなるほど、独り占めしてしまったことへの罪悪感は計り知れない。
三人奥様がいたならば四人目で良かったのではないか。
それなのに宇髄さんは私のために三人との夫婦関係を解消してくれた。
嬉しいよ…?
嬉しいけど…、私の中でずっとずっとそれが蟠りとなって膿のように膨れ上がっている。
こんなこと考えたらいけないのに、戻れるならば出会った直後に戻ってやり直したいと思うこともある。
そうしたらきっと私は彼と交際することは二度とない。
何も変えずにただ継子としてだけそばにいることを望むだろう。
欲しいものなんて無いに決まってるよ。
これ以上望んだらきっと地獄に落ちると本気で思うのだから。