第25章 甘える勇気
呉服屋の女将さんに連れてこられたのは先日、生地を見せてくれた部屋。
そこには宇髄さんが選んでくれた生地が浴衣になり、飾られていて、その前には髪飾りや下駄、小さな巾着などがたくさん並べられていた。
そして私はまたもやこの光景にチカチカして眩暈を起こしそうだった。
此処から合う小物を選べと…?!
目をこれでもかと見開き、女将さんに助けを求めると和かな表情で微笑まれた。
「ふふふ、大丈夫ですよ。大まかには選んでありますので、そこから選んで頂けたら…。」
「え、…?!そうですか…!よ、良かったです…。私ったらこういうのに疎くて…いつも何を選んだら良いのか分からないんです…。」
「お綺麗なので何を着てもお似合いだと思いますのに人の悩みは本当にそれぞれですね。ふふ。大丈夫ですよ。浴衣を着てみたら宇髄様をお呼びしましょうね。」
「…はい…!」
良かった。
一人で選ばされるわけでないと分かった途端、ホッとして胸を撫で下ろした。
それにしても飾ってある浴衣は本当に可愛い。
濃紺に白い百合の模様は私には勿体無いほど美しくて思わずうっとりとしてしまった。
宇髄さんに選んでもらって本当によかった。
「婚約者様、お名前を伺ってもいいですか?」
「あ…ほの花、です。」
「ではほの花さん、浴衣を着てみましょう?きっと宇髄様、あまりの美しさに見惚れてしまいますわ。」
「え、あ…あはは。宇髄さんは大袈裟なんです…。ごめんなさい。」
いつでもどこでも褒めてくれるのは嬉しいけど、恥ずかしくもあるので外では控えて欲しいと言っても彼は聞いてくれない。
嘘を言ってるわけではないと思う。
彼はそんなちっぽけな嘘などつかない。
だから褒められたら嬉しいのだが、それと同時に恥ずかしげもなく言われることに戸惑いもあるのだ。
女将さんが飾ってあった綺麗な浴衣を手に取ると試着のため、着ていた着物を脱いで、それに袖を通す。
真新しい匂いとパリッとした生地が仕立てだばかりだと言うことを表している。
こんな素敵な浴衣を買ってくれたのが自分の恋人だなんて一年前には考えられないことだ。
幸せすぎて、本当に怖くなる。
いつか全てがなくなってしまうのではないかと。
不安で仕方ない。