第25章 甘える勇気
「背格好から宇髄様だと思いましたよ。仲のよろしいことで。ふふ。」
「悪ぃな、女将。コイツが頓珍漢なこと言うからよ。」
「な?て、天元……ご、ごめんなさい。」
呉服屋の前でほの花の天然が炸裂した為に、言い争っていたのは数分前のこと。
もう正直、コイツを手懐けて愛して幸せにしてやれるのは自分だけだと思えてくる。
いや、実際そうだ。
容姿だけ見たら最強なコイツが心から寛げて幸せになれるのは俺のそばしかありえねぇ。
ほの花が色んなことを諦めて、相手に合わせるのであれば選り取り見取りのことだろう。
コイツを娶りたいという男は星の数ほどいる筈だ。
だが、本当にコイツのことを理解してやって、幸せにしてやれるのは俺だけだ。
そこまで考えられるのは俺だけだと自負している。
だから此処までコイツは遠慮してるのだ。
それで良いのに、本当に良いのだろうか?と気に病むのはそこまで俺が踏み込んでいるからだ。
だとしたら俺だって遠慮はしない。
困惑するくらい踏み込んで、絶対に俺と一緒になれて良かったと言わせてやる。
俺以外ほの花を本当の意味で幸せにすることなどできやしないのだから。
「ふふ。喧嘩するほど仲が良いと言うものです。婚約者様もお元気そうで何よりです。相変わらずお綺麗なことで…。」
「え?!いや!そんなこと…!」
「だろ?毎日クソ可愛いからよ。」
「ええ、そう思いますわ。宇髄様は見る目があります。」
容姿に関しての謙遜など認めるわけがない。
コイツが可愛くねぇなら世の中の人間はどうなる。
こう言うのは「ありがとうございます」でいい。
まぁ、そんなことがわかるような奴ではないが。
「浴衣を取りに来た。」
「はい。ご用意できております。ですが、小物を幾つか見繕ってはあるんですが、もし良ければ選んでいただきたくて、お時間あればご試着できませんか?」
そう言って俺とほの花の顔を交互に見る女将。そういえば先日自分で選べなくて疲れきっていたほの花に見兼ねて、小物類は女将に一任したことを思い出す。
「…だって?ほの花、いいか?試着。」
「あ、は、はい!もちろんです!」
「んじゃ、宜しく頼むわ。」
ほの花を女将に託すと俺は先日と同じように主人に茶でもてなされた。