第25章 甘える勇気
宇髄さんに連れてこられたのは見覚えのある呉服屋さん。
そう、此処は琥太郎くん達がまだ屋敷に住んでいた時に連れてきてくれたところ。
また仕立てるために来たのだろうか?
「え、此処?」
「そ。お前の浴衣が仕上がったんだとよ。だから取りに来たってわけ。」
「あ、浴衣…!」
「…お前、今の今まで忘れてたろ。」
「え、そ、そんなことないよ?!」
忘れてた。
完全に忘れてた。仕立ててもらっておきながらうっかりしっかり忘れてた。
何という罰当たりな女なのだ。折角宇髄さんが私のために仕立ててくれた浴衣だというのに。
じーっと見つめてくる宇髄さんは恐らく確信しているようで、深いため息を吐く。
「はぁ、お前は本当に欲がねぇよなぁ。欲しいモンとかねぇの?」
「…そんなことないけど、今、満ち足りてるからないだけだよ。」
「そんなこと言っていつ聞いても欲しいモン無ぇって言うじゃねぇかよ。俺にねだってきたモンと言えばあの温室だけだぞ?派手に不満だ。」
そうは言われても無いものは無い。
温室だって本当に欲しかったのだから仕方ないと思う。
でも、こんな女は可愛くないだろうということだけは分かるので、何とか宇髄さんのご機嫌を取りたくて腕に絡みついた。
「ご、ごめんね…?でも、天元、浴衣買ってくれたのは嬉しいんだよ?本当だからね?」
「そうやって機嫌取ろうったって騙されるかよ。俺の心は深ーく傷ついたんだ。」
「ごめんって…、天元。あとで豆大福買ってあげるから!」
「そりゃ、お前が食いてぇモンだろうが!」
「え?豆大福は嫌?おはぎにする?」
宇髄さんは豆大福いつも一緒に食べてくれるので好きだと思い込んでいたけど、違ったのだろうか?
ご機嫌を取ろうと思ったのは間違いないけど、宇髄さんの好きなものを間違えていたのならば正しておきたいというものだ。
「俺は豆大福を美味そうに食べてるほの花が好きなんだわ!豆大福にそこまでの想いはねぇ!」
「えー?そうだったの?てっきり好きだと思ってた。そこまで言うなら天元だって好きなもの教えてよ!」
「ほの花。」
「そうじゃなくてーー!!」
呉服屋の前で一体何を騒いでいるのか。
見兼ねた店主が中から出てくるまで私たちは営業妨害をし続けてしまった。