第25章 甘える勇気
ほの花がまた碌でもないことを考えてると感じたのですぐに苦言を呈したが、隣を歩くほの花は遠慮の塊の人間。
俺が良いと言っても
あの三人が良いと言っても
自分が納得できてないとちゃんとした解決にならないとよく知り得ているつもりだ。
しかし、今回の内容は"今更かよ?"ということ。
あれほど熱烈な求婚をしたと言うのに何を遠慮する必要があるのだ。
幸せ過ぎて不安になるというのは分からないわけではないが、儚い表情をしたほの花がどこかに行ってしまいそうに感じて慌てて手を握り締めた。
「…もう、どこにも行くなよ?」
「分かってるよー。ずっと此処にいるよ。当たり前じゃん。変なこと言ってごめんね。」
「それならいいけどよ。俺にはお前しかいねぇから。」
「うん。私も天元だけだよ。」
隣を歩くほの花に見惚れている男どもを睨みつけながらも、根本的な心配は其処ではなく隣にいる女の腹の中だと言うことが頭を悩ませた。
「…天元、痛いよー。」
「悪ぃ。でも、お前も悪い。変なこと言うのやめろよな。」
強く握りしめ過ぎたようでほの花が眉間に皺を寄せて見上げてくるが言い返してやる。
本当に思い通りにならない女だ。
それでも愛しているのだから手放せない。
握り返してくれるその手の温もりだけが信じられる。彼女の言葉はあまりに心許ない。
今のほの花は俺が「このまま恋人のままでもいいか?」と問えば平気で頷いてくると思う。
自分の幸せを二の次にしがちなほの花だが、忘れないでほしい。
ほの花の幸せが俺の幸せでもあるということを。
恋人のままでは幸せではないのか?と聞かれれば必ずしもそう言うわけではないとは思う。
だが、俺は将来ほの花を娶りたいと思っているし、彼女だって俺とそうなりたいと思っているはずだ。
彼女に足りないのは幸せになる勇気だ。
次から次へと難儀な女だ。
「いいのかな?」「大丈夫かな?」といつも頭の中を埋め尽くしているのは遠慮の言葉ばかりだろう。
いいに決まってる
大丈夫に決まってる
そう気付くのは一体いつになるやら。
手を引くその美しい女を呆れたように見つめると目的地へと向かった。