第25章 甘える勇気
皮がパリッと焼けて、身がふわふわの鰻が到着すると久しぶりのその香ばしい匂いに顔がニヤけてしまう。
「美味しそーーーっ!!」
「夜に向けて食え。何ならあと三杯くらい食え。あ、それなら俺も食わねぇとな。」
「食べないでいい!食べないで!!私も食べないから!」
訝しげな表情をこちらに向けてくるが、宇髄さんがこれ以上絶倫になられたら困るのは私だ。
彼の絶倫具合は身をもって体感している。
翌日の自分の仕事がままならないことくらい容易に想像がつくのだ。
「何だよ、俺に抱かれんのが不満か?」
「ち、違うって!そうじゃなくて…、その天元の体力について行くのは大変…って話で!」
「そりゃあそうだろ?俺の愛は山よりも高くて、海よりも深いからな!」
「わ、私だってそれくらい天元に愛があるよ?」
「そうだよな?じゃあしっかり夜付き合ってくれよ?」
ついうっかり余計なことを言ってしまった。
これでは夜の営みを彼に合わせて何度でも構わないと言っているようなものだ。
「…お手柔らかに…。」
「はいはい。気が向いたらな。」
目の前で箸を持ち、特上鰻を食べている宇髄さんはそれはそれは機嫌も特上。
お吸い物を啜りながら、夜の自分に頭の中でひたすら謝ることしかできない私は美味しい鰻を食べつつも気が気でなかった。
*
「はぁー!食った食った!」
「あの、私がご馳走するって言ったじゃん…!」
「お前馬鹿?自分の女に出させるわけねぇだろ?ほの花は甘えてりゃいいんだよ。」
美味しい鰻を堪能すると、当然のように宇髄さんがお支払いしてくれたので、当初の予定と全然違ったので口を尖らせて不満をぶつける。
しかし、全く取り合ってくれない彼はいつもと変わらない。
あんな事件の後とは思えないほど。
「…これじゃ、御礼にならないよぉ。」
「礼なら体で返せよ。」
「…も、もうーー!!結局そこなの?!」
「当たり前だろ?!お前とヤれんのは俺の特権だろうが!!」
「ちょ、っ!お、大きい声で言わないでよ…!」
店前で卑猥なことを大きな声で言い出す宇髄さんに慌てて口を押さえて制止するが、彼にとってみればこんな風にご馳走されるなんてことよりも重要のようで、真剣な顔をしているのでそれ以上突っ込むこともできずに肩を落とした。