第25章 甘える勇気
引き摺られるように向かったのは天ぷら屋さんではなく…鰻屋さん。
夜のお誘いしたわけではなかったのに、ニコニコして前に座る宇髄さんは上機嫌にお品書きを見ている。
「やっぱ、此処は特上だな!夜に向けて。女将さーん、特上二人前ね。」
「え、ちょ、私も?!」
「お前も特上食っとかねぇともたねぇぞ?夜。」
嫌なことを考えないようにさせるためにあんな振る舞いをしていたかと思ったら、思ったよりもかなり本気の宇髄さんに私は固まる羽目になった。
「も、もたない…って、体力が?」
「と、精力だろ?俺だけ絶倫になってもな?」
いや、絶倫になってもな?というけど、いつ何時も絶倫ではないか。
鰻がどうこうは関係ない。
しかも、こんな白昼堂々鰻屋さんでする話でもない。
連れてこられた鰻屋さんはお昼の時間帯が少しズレていたことで空いてはいたけども。
「…わ、わかったよぉ…。」
「分かれば良し。しっかり食えよ。」
そうやって見上げた先にいた宇髄さんは優しい顔をして笑っていて苦言を呈そうにも簡単に絆されてしまいそうだ。
焼き場からは香ばしい鰻の焼ける匂いが漂ってくると先ほどの出来事がまるで夢だったのではないかと思うほど穏やか。
しかし、焼けるまでは少しだけ時間がかかるのでその前に改めて彼にお礼を言わなければ…と背筋を正した。
「天元…、今日はありがとう…。本当に助かりました。」
「当たり前のことをしただけだっつーの。お前は何も気にしなくていいから。」
「…うん。でも、やっぱり…ありがとう。来てくれた時、すごく…すごく安心した。天元、格好良かった。」
来るのは遅かったけど、修羅場になりそうな時に帰ってきてくれて、華麗に守られた側からすると心底格好良くていま思い出してもにやけてしまうほど。
急いで帰ってきてくれたの知ってるよ。
額には汗が滲んでいたし、手も汗ばんでいたから。
「まぁな。俺様は派手に色男だからな!」
「今日は本当に反論の余地はないよ。ありがとう。」
任務後なのに慌てて警察に行って、さっきの段取りを組んでくれていたんでしょ?
私のために骨が折れることをしてくれたのも分かってる。
彼はいつだって私を守ってくれる大切な恋人なのだから。