第25章 甘える勇気
──妻は大丈夫だ。
え?いつの間に妻になったの?
宇髄さんがさも当たり前かのようにそんなことを言うものだから私はどう反応したら良いのかわからず、固まってしまった。
あれよあれよと連行されていくその人は最後まで私のことを自分の女と言っていて、まるで白昼夢でも見ているかのように感じた。
彼は一体どこで間違ってしまったのだろう?
私が誤解させてしまったのだろうか?
あの時、ぶつかって散らばった物を拾わなければよかった?
そんなことをぐるぐると頭の中で考えていると、隣にいた宇髄さんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
そして一言だけ…
「お前は悪くねぇからな。」
そう言うと、慌ただしい玄関先が静かになるまでずっと肩を抱き寄せてくれていた。
すると、誰もいなくなった玄関で二人で佇んでいると宇髄さんが「少しだけ待ってろ」と言い残して部屋に足早に戻っていった。
「待ってろ」と言われたのでその場に座り、彼が帰ってくるのを待っていると数分ほどで着流しを着た彼が目の前に現れた。
「ほの花、出かけるぞ。」
「え…!?私、着替えてない…!」
「お前はそれで良いだろ。十分可愛いぞ?俺は隊服だったからよ。さ、いくぞ。」
そう言うと履物を履くように促されて、そのまま外に連れ出された。
出かけるとは言われたがどこに行くかも聞いていないのでさっぱり分からず、手を引かれるがままついて行く。
「…天元、どこ行くの?」
「ん?買い物と昼飯。」
「あ、…そっか!お腹空いたよね…!ごめんね、気付かなくて…。私がご馳走する!鰻でも食べる?!」
今日はとてもお世話をかけたのだから、それくらいご馳走させてもらいたいと、感謝の気持ちを表したかっただけなのにニヤニヤと笑いながら後ろを見た天元の顔は物凄く悪い顔をしていた。
「俺に精力付けさせていいのかよ?今日の夜は朝まで寝かせてやれねぇかもしれねぇぜ?」
「え?!や、やだ!そういうつもりじゃないのにー!!」
「いやー、ほの花のお誘いなら仕方ねぇよな。天丼でも食おうかと思ったけど、鰻にすっか!」
「天丼にしよ!!ね?天元ー!」
それが私を元気付けるためだと言うことはなんとなく分かっていた。
でも、気付かないふりをした。
彼の優しさを存分に堪能したかったから。
……今日は甘えたいと思ったから。