第25章 甘える勇気
「お前か…!僕の女を誑かした不届き者は…!」
「どっちがだよ…。つーか、お前がしたことは立派な犯罪だからな。いま、ほの花にしたことは強姦未遂だ。外に警察が待機してるからしっかり罪を償ってくるんだな。」
「…な、何だって?!お前が僕の女を寝取ったんだろ!?お前こそ警察に…!」
「だーかーらー。コイツは俺の女。誰が何と言おうと。大体ほの花がいつお前の女になったよ?半年以上前からコイツは俺の恋人だぞ。」
宇髄さんの声が彼の背中伝いに響いてきて、心地いい。彼に任せておけば大丈夫だと声色だけで教えてくれる。
「…は、半年?!そんな筈ない…!一ヶ月前…僕とほの花は運命的にぶつかって…、優しく笑いかけてくれたじゃないか!」
「……一ヶ月前…?え?……あ!ああ!あの時の…!って、え?いや、本当にぶつかって散らばったものを拾っただけ…。」
それは一ヶ月前、産屋敷様の調合に行った帰り道に町を通った際に、確かに知らない人とぶつかった。
しかし、鍛錬のおかげで体幹が鍛えていることで何ともない私と違ってその人は吹っ飛んでしまった。慌てて近寄って転んだせいで散らばったものを拾って渡してあげた。
が…!それだけのこと。
本当にそれだけだ。
そんなことで運命だ何だの…"僕の女"になるまで飛躍するなんて白目を剥くほど驚いた。
「…どうやら会ったことはあるらしいな?」
後ろをチラッと見る宇髄さんにコクンと頷き、肯定すると優しく笑ってくれる。
「大丈夫だ」と言われているようで嬉しくて再び彼の背中に顔を寄せた。
「あのな、よく聞けよ?俺はほの花と結婚の約束までしてんの。ちゃんとコイツの親にも報告してる。お前はちゃんとしたのかよ?」
「…そ、そんなことしなくても、僕とほの花は心で繋がっている…、」
「わけねぇだろうが。俺とだって未だにちゃんと言葉を交わさないと分からないことがあるんだ。言わなくても伝わってるなんて言う夢見てんじゃねぇよ。ンなことはありえねぇ。ちゃんと言わねぇとわかるはずがねぇ。」
宇髄さんのいう通りだ。
ちゃんと言わないと伝わらない。
だから人間は言葉を話し、理解して、お互いを思い合うのだ。
彼の言葉が自分の胸に深く突き刺さってじわりと広がっていく。
甘く、温かく、優しく…。