第25章 甘える勇気
「天元様、遅いですね。ほの花さん。」
「…そうですね。」
虹丸くんの話によると、寄り道してから帰るからギリギリになるらしい。
ちゃんと来てくれるとは思うけど、なかなか帰ってこない宇髄さんに、ドキドキと心臓が煩い。
心配そうに私を見ている雛鶴さん達を安心させるように笑顔を作るが、内心不安でいっぱいだ。
ひょっとしたら会うのが嫌になってしまったのだろうか?
面倒だと思ったのだろうか?
良からぬことが頭を埋め尽くす。
そんな人ではない。
昨日の情交の時だっていつもと変わらない愛をくれた。
分かっているはずなのに時間は皆平等に進むため、直に正午になってしまう…と思ったころ、宇髄さんが帰るより先に玄関で「ごめんください」と声が聞こえる。
先に私が対応するしかないと思い、玄関に向かうが雛鶴さんに一瞬止められる。
「天元様が来るまで私が応対しましょうか?」
「いえ、大丈夫です。逆上するといけませんので。」
大丈夫と言ったのは自分に向けたようにも感じる。
大丈夫。彼は来てくれる。
私を見捨てたりしない。
そうやって何度も言い聞かせると私は玄関で彼を出迎えた。
「…本当に来たんですね。」
「ああ、ほの花。今日も美しいよ。あの男はどこだい?荷物は纏めたかな?僕が物申したらすぐに此処を出て祝言をあげよう。そうしたら名実ともに君は僕のものだ。」
「彼はまだ仕事から戻っていません。」
素直にそう言うと、目の前のその人は声高らかに笑い出した。
それはもう屋敷中に響き渡るような声で。
腹を抱えて笑うその人に眉間に皺を寄せると急に私の手を取った。
「…何ですか?離してください。」
「あの男は僕に恐れを成して逃げたんだ。馬鹿な男だ。逃げるくらいならば最初から僕のほの花に手を出さなければこんな風に此処に来ることもなかったと言うのに。哀れな男だ。」
「……は?」
いや、逃げたかどうかは今の時点では分からないが、少なくとも目の前にいる人が怖くて逃げたのではないことくらいは私でもわかる。
だって宇髄さんだ。
鬼殺隊の柱だよ?
腕っ節なら負けないし、こんな人に恐れを成すわけがないのだ。