第25章 甘える勇気
日中、用事で出掛けて帰ってきたら、まきをからほの花が変質者に一人でビシッと言ってくると出かけたことを聞いた。
居ても立っても居られなくて、すぐに追いかけようと思ったが、それではいつもと何にも変わらない。
俺の方がほの花を自ら甘えにくくすることをしていたのかもしれない。
アイツが嫌な想いする前に回避できるならばその方が良いと今でも思っている。
でも、それだとほの花は俺が与えた甘えられる時間を受け入れているだけ。
自発的にするそれとは違い、また受け身にしてしまう。
もちろん回避してやれることは回避してやりたいが、あまりに大切だからこそ大事に大事にしすぎてしまった。
「…部屋で待つか。」
ほの花を待つために部屋に一旦戻るが、気が気でない。
本当は気になって仕方ないのに、変質者のことも、手紙のことも、全て気付いていないフリをしているが、時透から聞かなくとも流石にここ最近のほの花の様子を見ていたら気付くと言うものだ。
ほの花の部屋に行けば箪笥の方をチラチラ見てばかりいるし、「あー、どうしよう…」と部屋で一人で呟いてるのも何度か聴いたし、挙句の果てに情交中もうわの空。
ちょっと苛ついて意識飛ばしてやったが。
どうせあの箪笥に手紙がしまってあって、小声で言ったつもりかもしれないが俺の耳の良さを見くびりすぎだ。
ほの花の声ならばどんなに離れていても聴こえるんじゃないかとすら感じる時もあるのに。
堪忍袋の尾が切れそうだったが、ひょっとして今日で蹴りをつけて来てしまってまさかの甘えられず仕舞いで終わるのではないかと言う心配もあったが、俺はひたすら待った。
しかし、陽が落ちてしまうと今度は良からぬことが頭をよぎる。まさか薬とか盛られて手篭めにされそうになってるわけではないよな?と玄関先でウロウロとしていた時、ほの花の足音が聴こえて来てホッと一安心した。
平静を装うために深呼吸を数回すると、玄関でほの花を出迎えるが、その顔は明らかに狼狽えていてどうやら"ビシッと言う"と言うのは失敗に終わったと顔が物語っていた。