第25章 甘える勇気
「君はあの男に騙されているんだ…!君がいない時に女を三人も侍らせていた不届きものだぞ?僕のことを愛してると言いにくいならば僕が君に付き纏っているあの男に言ってやる!」
「……はい?いや、本当に結構ですから。」
騙されてもいないし、女三人というのは間違いなく元奥様だろう。
あの三人といたのは何の不思議もないし、付き纏っているのは宇髄さんではなく、自分だとなぜ気づかないのか不思議でならない。
「何故気持ちに正直にならないんだ?僕がこんなにも君を愛しているのに。」
「いや、正直に言ってます。私は彼を愛しているんです。あなたのことは愛してない。それだけのことです。お願いです。もう私に付き纏うのはやめてください。」
「あの男に僕が物申してやるから心配しなくて良いよ。明日の正午に君の家に行くよ。必ず守るから家を出る準備をしておくんだよ。」
「え、ちょ…!あの!待って…!!」
これこそまさに言い逃げ。
最早彼と意思疎通は不可能なのではないかというほどの絶望を感じている。
いや、呆気に取られてる場合ではないじゃないか!
来られたら困る。
めちゃくちゃ困る。
私は彼が居なくなった方に向かって慌てて走り出したが、人が多くて見当たらない。
宇髄さんほど耳がよければ足音で分かったりするのかもしれないが、生憎私にそんな特殊技能はない。
「……どうしよう…。考えられる中で一番最悪な事態にしちゃったよ…。」
こんなことならば早い段階で彼に伝えておけば良かった。
そうすればあそこまで過激な恋文をもらうことも、あそこまで想いを募らせることもなかったのかも知れない。
私は大馬鹿者だ。
何故害がないからと言って放置したのだ。
気付いた時点で対処すべきだった。
何か行動を起こした時には手遅れだということが身に染みて分かった。
わかるのが遅過ぎだ。
懐に仕舞い込んだ手紙も返すのを忘れてしまった。しかし、これを見せたら宇髄さんは理解してくれるだろうか。
いやいや、逆鱗に触れるとしか思えない。
「あああああ…、もう嫌…。帰りたくない、でも帰らないと…。」
私は天を仰ぎ、項垂れたまま屋敷への道を一人トボトボと歩いた。
夕陽が綺麗なのにやけに虚しく感じた。