第25章 甘える勇気
「天元様、いい加減にしないとほの花さんが食べられないじゃないですか。」
ほの花の「あーん」を堪能していると目の前にいたまきをがそんな苦言を呈してくるのでハッとした。
そういやほの花はさっきから全然食べれてない。
「あー、悪ぃ悪ぃ!」
「え、いや、それは全然良いんだけど…。」
あまりにやって欲しくてそんなことも失念していた。ほの花の頭を撫でると、今度は俺が箸を持ち、魚をほぐすと彼女の口に持っていく。
「ほら、あーん。」
「え、いや!わ、私は良いですっ!!」
「何言ってんだよ。ほら、あーん。」
明らかに困惑しているのはこの行為が恥ずかしいからだろう。
そんなことお前やらしてたんだぞ?
時透にも俺にも。
まぁ、俺ら二人とも別に恥ずかしくも何とも思ってねぇけど。
「う、宇髄さん…!自分で食べれる…!」
「俺の"あーん"が受け入れられないとか言うんじゃねぇよな?ほの花?」
最早、ほぼ脅迫だと思われても仕方ないが、止める気配がない俺に根負けしたかのように口を開きそれを口腔内に入れてくれた。
もぐもぐと咀嚼しながらもその顔は真っ赤に染まっていて頭を撫でてやる。
「な?うめぇだろ?」
「う…味なんてわかんない…。」
「うめぇーんだって。味わえ。俺の女が作ったんだぞ?」
「う、うん…。」
そんな様子をニコニコと見ている時透と目が合うとお互い笑い合った。
こんな喜怒哀楽を表情で見たことはほぼ無かったが今日はコロコロと変わるそれが面白いと感じた。
「おい、時透、お前も俺の女にあーんしてもらったんだから有難いと思えよ!」
「えー?僕、弟なのでいいですよね。それより宇髄さんのお尻ぺんぺんされるのが見たいです。いつやるんですか?」
「やらねぇわ!!誰がされるかよ!!」
言葉のアヤだと言うのにニヤニヤしながら見たいと言ってくる時透に今度は俺がたじたじだ。
もう大人げない姿を晒してるので先輩としての威厳など全くないが、お尻ぺんぺんなど見られた暁には柱の立場も危ういとすら感じる。
"あーん"合戦が収束すると漸く和気藹々とした食事会になったのはいいが、落ち着けば頭に浮かんで来たのは隣にいるほの花のこと。
あのことをいつ言うつもりなのだろうかと人知れずため息を吐いた。