第25章 甘える勇気
「派手に不満が溜まった。俺にもやれ!今すぐにだ!」
どうしてこの人はこうも子どもっぽいのだろうか。こんなところも可愛いと思う反面、子ども相手に大人げない…とも思う。
ただ今回に関しては確かに宇髄さんにしたこともなかったし、可愛い弟ができて有頂天になっていたのは否めない。
少し考えれば彼の不満の意味など分かるのにやってしまったことは変えられない。
「わ、わかったよー…。はい、無一郎くん。お魚どうぞ。」
「うん。ありがとう。」
宇髄さんの様子を見てニコニコと笑顔の無一郎くんのがよっぽど大人だ…とは口が裂けても言えないが、一切れ乗せたお皿ごと彼に渡すと素直に受け取ってくれた。
そして今度は彼の前の取り皿に魚を一切れ取ると同じように箸でほぐして彼の口元に持っていく。
「はい、宇髄さん。」
しかし、同じようにやったと言うのに未だに不満げな顔を向けられたままなので今度は私が不満だ。
何故そんな不満顔なのだろう。
すると、彼がゆっくりと口を開いたその発言に私は度肝を抜かれることになる。
「…"あーん"ってやつは?」
「…えええ!?そ、それも?!」
まさかそんなことまで再現しろと言われているとは露知らず。
一度やってはいるものの、それは無一郎くん(要するに弟に)した行為に他ならず、弟のせわを焼く姉と言うのを体験してみたかったのだ。
無一郎くんも思ったよりも私のことを姉として慕ってくれているようで結果としては"あーん"をしてしまったが、彼は恋人。
彼にやることが逐一恥ずかしかったり、照れたりするのは宇髄さんに特別な想いがあるからに他ならない。
何とも想っていない相手にはできるが、好きな人にはできないというのは私だけなのだろうか。
そうだとしてもそんな心の内を伝えたところで理解はしてもらえない。
見回しても誰もこちらを見ずに食事を楽しんでいるようなので、私は意を決してもう一度箸を彼の口元に持って行った。
「う、宇髄さん…あーん。」
「あーん!…んーー、んめぇ!!やっぱりたまにはほの花の手料理、良いよなぁ。おかわりくれ。ほら、あーん!」
「も、もう自分で食べてよーー!」
そう懇願したところでその願いが叶うはずもなく私はニコニコとした無一郎くんに見守られながら宇髄さんの納得するまで食べ物を口に運び続けた。