第25章 甘える勇気
慕う者が多いと言うのは程度の問題で、決して変な男に好かれることを良しとしているわけではない。
何なら今すぐぶん殴ってあの世に送ってやろうかと思ってしまうのも致し方ない事だと思う。
「…ほの花さんのこと怒らないでくださいね。宇髄さん。」
「…あ?あー、あの変質者の件か。」
「はい。ほの花さんが宇髄さんのことを頼りにしてないとかそう言う事じゃないと思うので。」
「…分かってる。アイツは一人で何とかできそうな場合は頼ってこねぇからよ。」
分かってはいても腹の虫が収まらないのも仕方ないと思う。どんなことでも共有したいのに共有するためには聞き出さないといけない。
自ら話して欲しくても余分な気苦労をかけることを良しとしないほの花が話さないことも分からなくはない。
それでもアイツのことは何でも知っていたい。そう思うことは俺の独りよがりな愛なのだろうか。
深いため息を吐くと「入りまーす」と明るい声が聴こえて、襖が開かれた先にいたのは今し方、噂をしていたほの花。
顔を見てしまえば結局、絆されてしまうのも関の山。
両手いっぱいに抱えた料理を立ち上がって受け取ってやると満面の笑みで返される。
その笑顔だけで簡単に気分が良くなるのも惚れた弱み。
「無一郎くん!宇髄さんにいじめられてない?ふふ。」
「どんな言い草だよ、お前。失敬な奴だな。」
「あはは!大丈夫だよ。宇髄さんは意外に面倒見がいいって知ってるから。」
「お前も"意外に"って何だ。"意外に"って!姉弟で派手に失礼な奴らだな!」
顔は似てないのに笑うその姿は何故か似ていて時透が本当にほの花の弟のような気がしてきた。
まだ十四なのに妙に落ち着いていて逆に心配になっていたが、ほの花といる時の時透は年相応の感じでホッともしていた。
「私、まだ大皿がたくさんあるから持ってくるね。無一郎くん、宇髄さんにいじめられたらお姉ちゃんに言うんだよ!」
「だからいじめねぇっつーの!」
「あはは、はーい!」
こうやって大人がいるときは変に肩肘張らずに甘えればいい。
それが子ども時分の特権でもあるのだから。
大人がそう示してやればコイツはそれを感じることができるだろう。