第25章 甘える勇気
無一郎くんが家に来るのを翌日に控え、私は雛鶴さんに頼まれて買い出しに来ている。新鮮なお魚は明日買うとして、野菜など必要な野菜を買うためにきたのだが、思ったよりも多くて両手が塞がってしまった。
鍛錬で慣れているのでそこまで重いと感じてはいないが、嵩張るので早く屋敷に帰ろうと思っていると後ろに気配を感じた。
恐らく一般人で、殺意などは感じない。
特に危害を加えてくるようなこともないのでそのままにしていると、明らかに屋敷の方まで付いてきているのがわかる。
実はこの気配を感じたのはここ一週間ほどのこと。
誰かに見られていると思って辺りを見回したことが最初。
視線を感じた先にいたのは明らかに一般の人で、もちろん鬼でも無い。
鬼でなければ、一般人など手を出してこようとすれば返り討ちにできるので大して気にせずにいたが、面倒なので走ることでその人を撒いて逃げていた。
しかし、今日は頼まれた食材の中に卵もあるので、下手に走って割ってしまったら大変だ。
仕方なく、後ろに注意を向けながら歩いてきたのだが、結局声をかけられることもなく、ただ見られているだけという状況にこちらも打つ手がなく、放置していた。
鬼殺隊として戦える以上、不要な争い事は避けたいので、何が目的かは分からないが付かず離れずで様子を見ていることにしたのだ。
翌日、再び今度は新鮮なお魚を買うために町に向かうと再び同じ視線に気付くが、同じように無視を決め込むことにした。
何もせずただ見られているだけならば、害もないし、そこまで気にすることもないだろう。
そう楽観的に考えて、お目当ての魚屋さんで魚を選んでいると、トントンと肩を叩かれた。
「ほの花さん。」
そこには少しだけ険しい顔の表情の無一郎くんがこちらを見ていた。
約束の時間にはまだ早いが、早めに来てくれたのだろう。宇髄さんも彼と話がしたいと言っていたし、ちょうど良い。
「あ、無一郎くん!早いね?いまお魚買いに来てたんだよ〜!一緒に屋敷に帰ろう?」
「うん。…それよりほの花さん、大丈夫?」
「え?何が?」
わけのわからない私は素直にそう返せば、キョトンとした顔をした後、深いため息を吐かれてしまった。