第25章 甘える勇気
「時透を飯に呼ぶって話したらよ、雛鶴達が張り切っててさ。余計に呼ばねぇわけにはいかねぇんだわ。また俺の人権なくなる…。」
私が泣き止んだところで宇髄さんが手を引いて歩きながらそんなことを言ってきた。
そう言って深いため息を吐く彼とは打って変わって私は頬が緩むのを止められない。
「あー、何笑ってやがる。人の不幸は蜜の味ってか?」
「やだ、そんなことないよ!ただ…、天元はよく怒られてるなぁって。」
「頭上がんねぇんだよ。お前のことになるとアイツら般若みたいに追いかけ回してくるんだぜ?」
そう言って項垂れているけど、元奥様達と宇髄さんは固い絆で結ばれているし、ちょっとくらい彼女達を怒らせたところで離れていくことはないと思っているのだろう。
それは彼女達も一緒。
そこに嫉妬はないが、そうやって何でも言い合える仲と言うのは少しだけ羨ましいと感じている。
宇髄さんは私のことを大切にしてくれているし、愛してくれているけど、私は彼女達みたいにはできない。
愛してるから迷惑かけたくないし、
愛してるから心配かけたくない。
それが何でなのかずっと考えていた。
きっと私は失うのが怖い。
大切だからこそ失うのが怖い。
初めての恋人で、初めてできた大切な人だからこそ。
彼のおかげで少しずつ遠慮はなくなってきてはいるのだが、彼女達を見るとやはりそこまでできないと思ってしまう自分もいる。
こんなことを腹の中で考えていると知られたらそれこそ彼に怒られる。
だって遠慮せずに甘えろっていつも言ってくれてる。
でも、甘え方がわからない私に彼が先回りしていつも甘えさせてくれるから私は分からないままなのだ。
それでも良いと思ってた。
だって私が美徳としていることは彼に心配な迷惑をかけずに愛し愛されることなのだから。
それを考えさせられることが起こるなんて思ってもいなかった。
「でもね、私は雛鶴さんもまきをさんも須磨さんも大好きだよ。三人とも綺麗で憧れちゃう。」
「…はいはい。お前の病気は死ぬまで治んねぇな。」
彼女達を褒めると途端に呆れたような顔をするのもいつものこと。
本気でそう思ってるし、素直に賛辞を述べているだけなのに少しだけ不満がたまると言うものだ。