第25章 甘える勇気
しのぶさんの屋敷からの帰り道、宇髄さんが思い出したかのように声をかけてきた。
「なぁ、そう言えばいつにするよ?」
「え?…何だっけ…?」
「時透を飯に誘うんだろ?いつにする?弟なんだろ?」
そうやってニヤニヤしている宇髄さんは確信犯だ。こんなやらかしの事件の後に言うなんて意地悪だと思う。
「……無一郎くんの家に私がごはん持って行って一緒に食べてくる。」
「はぁ?!ンなこと俺が許すと思ってんのか?」
「え?駄目なの?」
そもそも弟だと言うことは承知してくれてるのに今更何を持ってしてダメだと言うのだろうか。
「駄目だわ!俺だって時透と飯食いてぇし、そもそも二人で飯食うとか寂しいだろ?大勢で食ったほうが美味いって言って誘ったのはほの花だろ?酒飲まなきゃいいんだよ。な?飯の失態は飯で返せばいいんだ。」
「……宇髄さぁん…!優しい…!」
「…いま、二人きりなんだけど。」
「…、あ、天元。」
折角汚名返上の機会を与えてもらえたと思い、優しいと褒めたのに宇髄さんは名前を呼ぶことに関してはやたらと厳しい。
「二人きりの時はちゃんと呼べよな。全く…。俺は婚約者だっつーの。」
「わ、わかってるけど…。」
「…けど?」
「いえ…何でもありません。ゴメンナサイ。」
婚約者なんだから
恋人なんだから
そう言って名前で呼べよと言ってくるのだが、未だに慣れない。
だってやはり鬼殺隊の柱と継子の関係は変わらないし、その時に継子である私が「天元」なんて読んでたらおかしいじゃないか。
それでも、そんなことは宇髄さんはお構いなしだ。
「あーあー、早くいつでもどこでもほの花に名前呼ばれてぇなー。」
「…そ、そのうち、呼べるようになるじゃん…!」
「そうだけどよ、万が一どっちか死んだら夢で終わるんだぞ?」
そんなことを急に言ってきた宇髄さんに私の胸がドクンと跳ねた。
何でそんなこと言うの?
突然、万が一死んだ時のことを持ち出す彼に悲しくなって、まともに顔が見れなくなってしまった。
私は、彼と人生を楽しみんでから死なことを想像していたと言うのに、宇髄さんはまるで直近のことを言ってるかのようだ。
それがとてつもなく悲しくて泣きそうになってしまった。