第24章 情欲は無限大※
厠に行くために部屋を一旦出ると、月が綺麗に出ていて思わず魅入ってしまった。
酒は強いとはいえ、多少体が熱ってはいるので夜風が気持ちいいと感じる。
そう言えば、こんな綺麗な月でも見ながらいつかほの花と月見酒でもしたいと思っていたことを思い出す。
正宗たちの話だと酒癖が悪いらしいので、こんなところで飲ませるわけにはいかない。
帰って余裕があればたまには情交の前に誘ってみるか…、とぼんやりと考えると用を足して大広間に戻ろうと長い廊下を歩いていく。
「あら、宇髄さん?」
すると、聴いたことのある声が聴こえたのでそちらを見ると暗闇から胡蝶が現れた。
「おー、何だよ。お前は部屋にいろよな。ほの花がアイツらに……何もしねぇか。流石に。」
「当たり前です。此処で何かしたら私だけでなくあなたからも怒られるわけですから何もしないと思いますよ。それにこれを返したかったので。」
そう言って見せてくれたのは本。
返すと言うことはほの花のものなのだろう。
だが、見たこともない本だったので近くでまじまじと見てみる。
「見たことねぇな、それ。」
「これ、ほの花さんが此方に来たばかりの時に貸してもらったものなんです。その時は恋仲でもなんでもなかったのだから知らないのも当然ですよ。あからさまな嫉妬を向けないでください。」
胡蝶にそう言われて、自分が不満げな表情をしていたことを知る。
しかしながらほの花のことならば何でも知っていたいと思ってしまう自分の欲望には困ったものだ。
頭を掻き、目を逸らすとため息を吐いた。
「あなたがそんなに一途な人だと思いませんでしたよ。奥様が三人もいたくせに。」
「…アイツらは三人とも今も平等に大切な存在なのは変わりねぇけどよ、ほの花は何つーか…それとは違うんだよな。」
「どう違うんですか?」
「……今と未来だけじゃなくて、過去まで欲しくなった初めての女。」
「結局惚気ですか。」と笑っている胡蝶を横目にほの花の存在について改めて考えてみた。
ほの花のことを考えるだけで心が温かくなる。
この世界で何もかも失って、深い悲しみに襲われても彼女がいれば俺の心に明かりを灯してくれると確信できる。そんな存在。
そして考えるだけでニヤける顔を抑えることができない、そんな存在。