第24章 情欲は無限大※
「え、お、おい…?泣くなよ…。俺、なんか酷いこと言ったか…?」
こはるちゃんの頭を撫でている私に向かって不安そうな琥太郎に首を振って否定を示す。
「ううん。大丈夫だよ。…思い出しちゃったんだよね?」
やっぱりそんな簡単に心の傷は回復しない。
元気そうにしていてもふとした瞬間に思い浮かぶのは大好きだった"お兄ちゃん"の顔なのだろう。
宇髄さんとはだいぶ年上だし随分体型が違うからそこまで感じなかったのかもしれないが、琥太郎くんは背が伸びて、確かに少しお兄ちゃんと重なるものがあったのだろう。
「…自分で話せる?私が話そうか?」
いつの間に琥太郎くんのお母さんが割烹着を脱ぎながら玄関先まで来てくれていて会釈をする。
尚も泣いているこはるちゃんが私にぎゅうっと抱きついてきたので、代わりに話すことにした。
彼女の身に起きた出来事を。
抱きついてきた小さな体をもう一度だけ抱きしめると彼らに向かって言葉を選ぶ。
「…こはるちゃんね、たった一人のお兄ちゃんを亡くしちゃったの。ご両親は早くに亡くしていらっしゃらなくて、お兄ちゃんしかいなかったんだ。」
鬼の話を琥太郎くん達の前で話していいのかわからずに何となく伏せてしまったけど、宇髄さんだけはそのことを分かっていることだろう。
「…きっと琥太郎くんのことが亡くなったお兄ちゃんに見えて思い出しちゃっただけだと思うよ。大丈夫。琥太郎くんは悪くないよ。」
ね?って抱きついているこはるちゃんに問えば、コクンと頷いてくれるので、頭を撫でた。
それを見て宇髄さんも横から大きな手で背中を撫でてくれる。
「こはる、大丈夫だ。お前はひとりじゃねぇよ。この姉ちゃんもいるし、俺もいる。此処にいるのは全員お前の新しい家族だ。琥太郎兄ちゃんのこと宜しく頼むぜ?」
「はぁ?!何で俺が宜しく頼まれねぇといけねぇんだよ!」
「おいおい、それくらいで怒んなよ。餓鬼だな、全く。」
「ほの花のことになると途端に目くじら立てて怒り狂う宇髄さんにだけは言われたくねぇ!!」
「それは仕方ねぇだろ!?」
途端にいつもの口喧嘩が始まってしまったのでお母さんと苦笑いをしながら顔を見合わせていると、「ふふふ…っ!」という笑い声に全員が固まった。
振り向くと年相応に可愛らしい笑顔を向けるこはるちゃんの姿があった。