第24章 情欲は無限大※
あの日、無一郎くんは私に教えてくれた。
「…僕、昔の記憶があまりなくて。でも、ほの花さんのおにぎりは温かくて、家族が作ってくれたみたいに感じました。凄く美味しかったです。ありがとうございます。」
サラッと言ったけど、"記憶がない"と言うことがどれほどつらいことなのか分からないわけではない。何を隠そう自分もところどころしか幼い頃の記憶がないのだから。
大切なことをそんなサラッと教えてくれるモノだから勝手に使命感に駆られて自分のことも話そうと思った。
「時透さん、私も昔の記憶がところどころないんです。」
「え…?」
「どうやら人に言ってはいけないことを忘れさせるために親が意図的に忘れ薬を飲ませていたみたいで…。つい最近、それを知ったんです。」
きっと時透さんの記憶喪失は私のとは違う系統だと思うけど、心の内を話したいと思った。
あまり喜怒哀楽を表に出さない彼に少しでも一人じゃないよと伝えたくなったのだ。
「そうなんですか…。」
「はい。でも、大丈夫です!記憶が無くても私にはたくさん支えてくれている人がいますから。時透さんにも。」
「え?僕も?」
「あなたは一人じゃないです。そうだ!今日から時透さんは私の弟です!私、兄が四人いたんですけど、弟か妹が欲しかったんです!いいですか?」
勝手にそう決めて彼を見ると驚いたような顔をして少しだけ引き攣らせている。
踏み込みすぎたかな?と思ったけど、止められなくて結局そのまま突き進むことにした私は、彼の手を握った。
「人は一人では生きていけません。今日のおにぎりもお米を作ってくれた人がいて、鮭や梅を売ってくれる人がいて、それを握った私がいます。そして食べてくれた時透さんがいます。」
強く強くその手を握り締めると、宇髄さんと同じところにタコが出来ていた。強くなるために必死に努力をしている証拠。そんな彼に幸せになってほしいと心から思いながら言葉を続けた。
「産屋敷様も、柱の皆さんも、私も。みんなあなたのことを気にかけています。時透さんは一人じゃないです。この手は戦う立派な手ですけど、無限の優しさを兼ね備えた愛に溢れた手です。さっきも助けてくれてありがとうございました。」
思い出されるのは喧嘩を売られた時、助けてくれたのは時透さんで、ちゃんとお礼を言ってなかったので慌てて頭を下げた。