第23章 早とちりも程々に※
慌てた様子で閉まる襖の音で意識が浮上した。
気がつくと腕の中にはほの花が忽然と姿を消していて、今の襖の音が彼女が出ていった音だと寝ぼけた頭でぼんやりと気づく。
欠伸を一つすると寝起きでもやはりほの花の顔が見たくて襖を開けてみる。厠でも行ってるのだろうか。
いつもなら此処で待っているところだが、ややがいるかもしれないほの花がどこかで転んだりしていたら大変だ、と俺はそのまま部屋を出た。
居間を覗いても、台所を覗いてもいないので、やはり厠か、と思ってちょうど厠の前を通った時、中から腹を抑えて真っ青な顔をしたほの花が出てきた。
腹が痛いと言うので慌てて部屋に連れ戻したが、腹の子に何かあったのかもしれない…と気が気でない俺はほの花に羽織をかけて蝶屋敷に向かおうと頭がいっぱいだった。
「大丈夫」と言うほの花を説得して早く診てもらわないと…!と必死だったのに次の瞬間、彼女が発した言葉に固まる羽目になった。
「……月のモノが来ました。」
そう言って苦笑いするほの花を見て俺は屋敷中に響き渡る程の大絶叫をした。
「…嘘だろ…。」
俺はやっと二人でややが出来ているかもしれないことを共有できて、正直楽しみで、男か女かも気になっていたと言うのに…。
いや、でも…時期的にはやはり良かったと言えるのか…。
「…なんか、ごめんね?」
そう言って謝るほの花だが、そんな謝るようなことでもない。どちらかと言えばこっちが早とちりしたわけで、ほの花は昨日から「違うと思うけど」と言っていたのだから。
「…いや、ほの花が謝る必要ねぇよ。だけどなぁ…楽しみだったからなぁ…。派手に残念だけどやっぱ時期じゃねぇってことだよな。」
「…あ、えと…ごめん。昨日言えなかったんだけどね…。実は試作品の経口避妊薬飲んでて…、だからそのせい、かも…?」
「はぁ?!何だよ、それ。お前の体に害はねぇのか?!」
「いや、それを調べる為にも効果を実体験しようと思ってね。」
「ふざけんな!ンなもん飲むな!ややが出来たら出来たで良いって言ってんだろ?もうやめろ!いいな?」
薬で避妊してたなんて知らなかったが、そんなことせずとも子ができたらそれでいいじゃねぇか。何とも腑に落ちずほの花をジト目で見遣る。