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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


「っ………。」

みずからの名前を呼ぶ声が聴こえた気がして、ヴァリスは開いていた本からおもてを上げた。



読んでたのは、この世界の逸話を集めた童話集だ。

幸せな結末の話から、ほろ苦さの残る余韻を与える話まで、どの童話も興味深くて。



(この本……本当に楽しい)

ぱら……と頁をめくりながら、先刻の出来事を繙く。



何気なく通りかかった図書室で、本と本がなだれる音をとらえ。

知らず入っていくと、フェネスが本たちの下敷きになっていた。



くすくすと微笑いながら整理の手伝いを申し出ると、彼は瞳をゆらめかせた。



『そんな……主様に手伝っていただく訳には………、』

そう言い淀む彼に、優しく笑ってつぶやいた。



『終わったら、あなたのおすすめの本を教えて。それでおあいこだよ』

みずからの唇が、自然と笑みに染まる。

その表情をみてフェネスは遠慮がちに微笑んだ。



『わかりました。じゃあ……お願いします』



『うんっ、任せて』

それから互いの好きな本のことを話し合いながら掃除をして。



彼女が元いた世界で読んでいた小説のことを口にする度、フェネスは穏やかに微笑んでいた。



彼自身が語る本たちのあらすじも、とても新鮮で興味深くて。



知らず知らずのうちに熱のこもっていく語り口に、

彼女が微笑んでいると、フェネスははっとしたように唇をとじて。



『うぅ……俺ばかりが興奮してしまい、すみません』

そう言って恥ずかしそうに朱を散らす彼に、ヴァリスはつぶやいた。



『あなたの話はとても楽しい。だから続けてほしいな』

心からそう口にすると、その瞳を覆っていた思考のヴェールが取り払われて。



『主様も読書がお好きなんですね』

そう呟く彼は、「俺もなんです」と嬉しそうにはにかんでいた。
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