第4章 病魔 前編
「いない……?」
その姿は影すら消え去っていた。
「ベリアンさんに話さねえと、」
胸のなかは混沌で満ちている。
己の奥で聴こえる恐れの声を、ボスキは奥歯をかんで呑み下した。
「……ヴァリス」
いつの間にか夕陽が空を染めはじめている。
ゆらりと浮かぶ白三日月が、なんだか自分を嗤っているように視えて、彼は頭を振った。
「あんたは、その身になにを背負っている……?」
引き返すつま先。
脳裏でこだましている「其れ」の声を、彼は半ば強制的に追い出した。
否応のなく膨れ上がった、胸騒ぎを抱いたまま。