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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第4章 病魔 前編


『っく………あはははははっ』

突如として嗤いだす。この上なく滑稽だと云うように。



「…………!?」

思わず圧倒されると、そのさまにさえ嘲笑した。

ひゅ……!と空を切り裂いて向けた刃の切っ先にも、彼は顔色ひとつ変えなかった。




変わらず可笑しくてたまらないと嗤いつづけている。




『騎士気取りか。………どうやらお前は、彼女のことを何も知らないようだ』

不可解な言葉に心がざらつく。

探るような眼を向けても、彼はニヤニヤと嘲るだけで………。




「……どういう意味だ」

その鼻先に刃を向けても彼は嗤いつづける。

そして声を止めた彼は、まだ笑いの余韻を滲ませたままつぶやいた。




『そのままの意味だが? その内、嫌でも思い知ることになるさ。

………彼女のすべてを、ね』

それからふいにその紅玉に宿すひかりが変貌る。



怒りと憤りと、そして煮え立つような憎しみを映して、

ボスキの視線をはねつけた。




『そんなに俺の目的が知りたいなら、彼女ひとりをつれて来ればいい。


彼女にとってもそのほうが本望だろう………今だって、視えぬ鎖に苦しんでいる筈だしね』


見透かしたような口ぶりに混沌が満ちる。

ざわりとする胸の内を抱いたまま、ボスキは再度唇をひらいた。




「そんなのわからねえだろう」

反射的に否定したが、彼は口角をつり上げた。

まるで貴族たちの冷えた視線に晒されている時のように感じて、染みのように広がる不快感。




ニヤニヤと嘲るような笑みを浮かべたまま、彼は告げる。




『先刻の俺の言葉の意味を、よく考えておくといい。

………では———また会おう、悪魔執事くん?』




「!」

驚きに冴えた瞳を小さく笑って、その姿が黒煙に包まれる。

そして、其れが風にさらわれた頃には。
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