第4章 病魔 前編
「ベリアン、お呼びと伺ったが」
ミヤジが研究室へと足を踏み入れると、そこには彼と。
「私もいるよ」
にこやかに笑うそのおもてに、何処か相容れぬ雰囲気を漂わせている。
そのおもてを見止めた途端、瞬時に己の表情が強張ったのが自分でもわかった。
「……ルカス」
冷えた声音で名を呼べば、ベリアンがふたりの間に割って入った。
「おふたりとも、そこまでにいたしましょう」
それぞれの胸に手を置き、そっと引き離す。
そのさまに、ふたりの瞳がほんの少しだけ柔らかくなった。
「そうだね、早く済ませてしまおうか」
彼のほうを見ないまま、笑んだ唇。
そんな彼に、ルカスはすぅっと両の眼を細めた。
(やはり、キミは私を赦してはいないようだね)
そうであっても仕方ない。
己のした行為と、………彼の性格を考えれば。
(……ミヤジ)
心で呼びかける。現で口にしても、響かないであろう己の考えを。
(私に、キミの赦しを乞う資格はないけれど………、)
医師として、ひとりの友人として、
いつの日かキミの心の蟠りが解ける日が来ることを願っているよ。
………と。視線に気づいたミヤジが、こちらへと瞳を巡らせてきた。
怪訝そうに柳眉を顰め、彼の視線をうけ止める。
「何かな、ルカス?」
冷たい声音。あらゆる感情を無理やり剥いだような、妙に平坦な声。
それでもこちらを見つめる瞳に、ルカスは唇をひらいた。
「いや、………何でもないさ」
にっこりと笑んだおもてを胡散臭げに見やって、彼の視線が離れていく。