第3章 捻れた現実
「ベリアン……どうしたの?」
「主様に、お伝えせねばならない事があるのです」
コポポポ……とカップに紅茶を注ぐ。そっと受け取りながら問いかけた。
「私に……?」
ゆれる瞳をみつめて告げる。
「えぇ。………私達のことについてと、——それからこの世界のことを」
「! もしかして、それって……。」
問うように彼をみつめれば、静かに頷いた。
「はい。天使と、そして我々——悪魔執事についてお話いたします」
「この世界は、四つの貴族家によって支配されています」
折った人差し指を立てる。
「ひとつが、我々の雇い主であるグロバナー家」
中指を立てる。
「ふたつ目が、東の大地を治めるサルディス家」
薬指を立てる。
「みっつ目が西の大地を治めるヴォールデン家」
小指を立てる。
「最後が南の大地を治めるポートレア家」
「雇い主……?」
カップをソーサーに置き直し、彼をみつめる。
「私達は、悪魔とある契約を交わした悪魔執事として、
この世界の人々を守っているのです」
「それが……天使たち………だよね?」
「御明答でございます」
密かやに浮かべる微笑。そしてその瞳に真剣なひかりを宿した。
「そして我々悪魔執事の力の解放をすることができるのが、主様——貴女なのです」
「!」
みひらく瞳をそっと見返し、告げる。
「主様、どうか我々とともに、天使たちと闘っていただけないでしょうか」
「……それって」
「主様には、天使狩りの際に私達の力の解放を行っていただき、
また我々のあるじとして、この世界に留まっていただきたいのです」
しばし瞳を見交わす。
その瞳の奥に隠した、意志のひかりを視つめ合うように。
「主として……。」
反芻する彼女の袖口がぐっと沈む。
見ると、ベリアンが彼女の傍らに近づき、その袖口をつかんでいた。
おずおずと、それを引く。
頼りない、まるで往くあてのない幼子のするような仕草だった。