第3章 捻れた現実
(この人達は、私を心から必要としているんだね)
「……わかった」
ややあって、彼女がつぶやく。
その言葉に、ほっとしたように彼の瞳が和んだ。
「ありがとうございます、主様」
それからその傍らに跪いた。
「この命に代えても、ベリアンは、貴女をお守りいたしましょう」
ヴァリスは膝をついた彼に手をまかせた。唇が手の甲をかすめる。
「ねぇ……ベリアン」
立ち上がった彼に、おずおずといった様子で唇をひらく。
「どうかなさいましたか」
「約束して。………私を守るためだけに、
自分の命を投げ出すような真似はしないって」
みひらく瞳に声を重ねる。
その視線の先で、ヴァリスは悲しげに微笑った。
「私……ね、子供の頃は、ずっと一人ぼっちみたいなものだったの。
父さんも母さんもいたけれど、ふたりから愛情は与えられなくて………。
だから、また一人になるのが怖いの……だから、お願い」
そう言って、深々と頭を下げる。
身体の前で重ねあわせたてのひらは、かすかに震えていた。
「顔をお上げください……主様」
そっと肩に添えられた手は、温かくも優しかった。
「お約束いたします……貴女を、決して一人にはしないと。
………執事一同の代理として、私が心から誓いましょう」
「きっとよ」
彼女の小指に、そっとみずからのそれを絡める。
「……ありがとう」
ようやく微笑んだ彼女を眩しげにみつめる。降り注ぐ陽光だけが、彼らを包んでいた。