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焦がれた恋情☩こころ☩に蜂蜜を【あくねこ長編】

第3章 捻れた現実


カタ、カタ、………ゴロ、ゴロ。
揺れる馬車のなか、アモンは毛布を引き寄せる。



「すぅ、………すぅ」

その視線の先に、眠るヴァリスの姿が。

ラムリの肩に寄りかかるようにして、ともに眠っている。




そっと毛布に包むと、眠ったままの彼女の唇が綻んだ。




「主様……。」

囁くように口にする。さらりと髪を撫でると、その眦から伝ったものは。



「!」

一筋の涙だった。指先でその雫を掬うと、染みのように広がる痛み。



「……どんな夢をみているんすか」
抱きしめてしまいたい衝動を強いて押し止め、問いを投げかける。



「ん………。」

眠ったままのヴァリスの唇がひらく。

かすかな寝言をつぶやきながら、ふたたび伝う雫。



「ヴァリス様……。」
涙を唇で吸い、その頬にふれる。



「できる事なら、あなたを———。」
カタン。馬車が止まり、ラムリの肩を揺する。



「ラムリ、………ラムリ。ついたっすよ」



「んん……ローズくん……?」
うっすらと瞼をひらき、ラムリが目を覚ます。



「帰ろう」

ふわりとヴァリスを抱き上げ、馬車のドアをあける。

目をこすりながらも、ラムリもまた降り立った。



「! お前たち……!」

………と。そこへ外壁の修理をしていたハウレスが、こちらへと歩み寄ってくる。



「どれだけ心配したと思っている」

厳しい眼差しでふたりを見やり、

そしてアモンの腕のなかで、眠ったままの彼女を見止めた。



「すぅ、………すぅ」

穏やかな表情で眠るヴァリスに、その瞳をわずかに和らげた。



「お叱りなら、後で甘んじて受けるっすから。

………先に主様をお部屋へ」

靴の音を忍ばせて、エントランスへと足を踏み入れる。



密やかに長靴を打ち鳴らし、階段を上って。

その背をみつめながら、胸のなかで渦巻く混沌をひもとく。



(なんだ? この感情は……。)

彼の腕のなかで、その胸にしがみつくあるじを見て、

ハウレスの内でもやもやとしたものが滞りはじめていた。



線の細く、執事たちのなかでも小柄なほうに数えられるアモンに抱えられ、

眠っているその姿は、安心しきっているように視えたからだ。
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