第3章 捻れた現実
『死に、な、さ………』
やがてすべての天使を倒すと、ふたりがこちらへと駆け寄ってくる。
「主様、お怪我はないっすか?」
「私は大丈夫。それより、さっきの天使って……。」
彼女の視線の先に、血濡れの亡骸。
あの日の記憶が呼び起こされて、その瞳が怯えのひかりを宿した。
「この世界の元凶ですよ」
ラムリがそっと、切り裂いた翼にふれる。
蒼褪めた顔のヴァリスに、安心させるように微笑みかけた。
「そんなに怖がらないで。この天使はもう死んでますから」
「そうじゃないよ。
私……この世界へ来る前、天使に殺されかけたの」
「「!」」
みひらく瞳に唇をかむ。
その瞳は不安と恐れに淀み、みずからの指で煌めく指輪をみつめている。
(あんな眼を向けられたのは、そう……あの人だけよ)
かんだ唇が震えている。
濁った瞳の放つ闇が、かつてみずからに向けられた眼差しと重なった。
アモンは何も言わず、彼女の手を握った。
「!」
おもてを上げると、いつになく真剣な表情の彼の姿が映る。
「大丈夫っすよ、主様。
オレたちがいる限り、あなたには指一本触れさせませんから」
そう言って、片手を差し出す。
「そうだね、ありがとう」
微笑んで、彼にみずからのそれを委ねた。