第3章 捻れた現実
(っ………俺は、)
解いたその先を危惧して、胸元を握りしめる。
己の中で芽生えた醜い感情は、彼を動揺させるには充分な要素だった。
「……滑稽だな」
響いた声におもてを上げると、そこにいたのは。
「ボスキ……。」
何処か面白がっているような、その気高さを感じさせる笑み。
壁に寄りかかるようにして、こちらをみている。
「くそ真面目なお前が、まさか主様に——」
懐に忍ばせておいた護身用の短剣を、ボスキの喉元に突きつける。
ひゅ……!と空を切り切っ先を向けられたそれに、彼のおもてから笑みが消える。
「……なんのつもりだ」
鋭利な眼差しに怯むことなく、真っ向から睨みつける。
「俺は、主様を『主様』のまま、大切に思うだけだ」
刃を下ろしながら告げる。
一瞬だけその眼に冷たさがよぎり、廊下の先へと消えていった。
「……ハッ」
せせら笑うように鼻を鳴らす。
「その感情………いつまで続くか見物だな」
せせら嗤うように口にする。ニヤリと皮肉げに曲げた唇が、
したたかさに彩られたペリドットの双眸だけが、未来(このさき)を視ているようで………。
「……ヴァリス」
呟いた名は、悲しい程優しかった。